被告人は、仲間内で「質屋ダッシュ」と呼んでいる質店での窃盗事件で、質店への事前の下見を行いました。被告人は、その後に仲間の実行犯2人が、質店から品物を窃取して逃げてくるのを、車で待機するという役割も担いました。この事件で検察側は、共同共謀正犯を主張しますが、弁護側は窃盗ほう助を主張します。弁護側情状証人に立った被告人の父親は、息子は仲間に騙されたと主張しましたが、裁判長は「争点は息子さんが主犯か従犯かという点で、有罪か無罪かではありません。勘違いしないように。」と厳しくたしなめました。
資料画像(by Wikipedia) |
罪 状 窃盗
被告人 20代前半男性
求 刑 懲役2年
「質屋ダッシュ」なる言葉を聞かれたことがあるでしょうか。googleで検索しましたが出てきません。そこでTwitterで検索すると出てきました。どうやら一つの意味は、金目の物を手に入れると直ぐ質入れすることのようで、もう一つは何やら物を盗るために質屋に行くという意味のようでした。これは最近の一部の若者の造語のようです。
「質屋ダッシュ」なる言葉を聞かれたことがあるでしょうか。googleで検索しましたが出てきません。そこでTwitterで検索すると出てきました。どうやら一つの意味は、金目の物を手に入れると直ぐ質入れすることのようで、もう一つは何やら物を盗るために質屋に行くという意味のようでした。これは最近の一部の若者の造語のようです。
今回の裁判で初めて聞いた「質屋ダッシュ」は次のようなものでした。犯行前日に実行犯とは別の者(今回の事件では被告人)が質店に入り、最も高価な高級腕時計を出してもらって店員の人数と性別、店内の様子等の下見をします。翌日の犯行当日はその質店に別の実行犯2人が入って、高級腕時計をいくつか出してもらい、品定めをしているふりします。内一人が店員とあれこれやり取りをしている間に、もう一人が店員のスキを見て最も高価な高級腕時計を盗って店の外へダッシュで逃げます。一緒にもう一人もダッシュで店の外へ逃げます。店の前の道路には、別の者(今回の事件では被告人)が車にエンジンをかけて待機していますので、逃げて来た2人は待機している車に飛び乗って猛スピードで逃げ去ります。店からダッシュで逃げる際に、凶器かあるいは催涙スプレーを使うなどの荒っぽい手段に出ることもあるようです。
事件の概要
平成31年3月〇日、被告人は仲間のAの指示で質店Dに下見に行きました。下見の目的は翌日に予定している「質屋ダッシュ」のために、店員の人数や性別、店舗の様子などを事前に知っておくためです。被告人は下見の際に、店員に138万円のロレックスの腕時計を出させました。店員の証言によると、この時被告人の左手は震えていたということです。
被告人が下見結果をAに報告すると、Aは別の仲間Bとともに翌日の「質屋ダッシュ」について話し始め、被告人とBに「質屋ダッシュ」をやろうと誘ってきました。被告人はその場ではOKと返事しましたが、後でBが断ろうと話をしてきましたので、実際はやめるつもりだったと供述しています。またAは被告人に「催涙スプレーを用意しろ。」と指示しましたが、被告人は「催涙スプレーは絶対やめろ。強盗になる。頭おかしいぞ。」と言って拒否しましたので、結局Aが用意したということです。
下見の翌日の3月△日、「質屋ダッシュ」をやることになり、実行役はAとBの2名となりました。被告人は結局、Aから車を出せと言われ、質店Dの前の道路に車にエンジンをかけて待機する待機役をすることになりました。AとBが質店Dに入ってしばらくすると、AとBが走って車に乗り込んできて「車を出せ」と言いましたので、車を急発進させて逃げ去りました。AとBは138万円のロレックスの腕時計を窃取してきていました。
質店Dの被害はロレックスの腕時計だけでなく、店舗の陳列ケース他が壊されたためその修復に30万円かかったということです。なお、ロレックスの腕時計は容疑者逮捕後、質店Dに返却されましたが、店舗の修復費用については弁償されないままとなっています。
その後、警察の捜査で質屋Dの店舗の防犯カメラの映像などから、A、Bと被告人の3人が特定され、3人とも窃盗の容疑で逮捕されたものです。
被告人は京都市内で生まれ、設備工として働いていました。被告人の話によりますと、AとBとは仕事を通じて知り合いとなり、Aからはいつも、金になるからというような期待を持たせる話をされ、仕事を紹介されたこともあります。Aには投資目的という名目で数百万円の金を預けています。またAは被告人の彼女からも百万円の金を巻き上げていました。以降、被告人は、Aから金を返してほしいという思いから、被告人とAとBの3人で、大阪のAの部屋で一緒に生活を続けてきたと供述しています。
AとBは、平成30年頃から窃盗を繰り返しており、平成31年2月頃には、奈良の質屋で「質屋ダッシュ」をやったということも聞かされていました。
そして、平成31年3月に入って、Aは被告人を「質屋ダッシュ」に誘い、3月〇日と△日の犯行の日を迎えたのでした。
この裁判では、被告人も弁護人も窃盗罪については認めており、論点は窃盗の正犯か従犯かという点です。弁護側は質店の前で車で待機していて、走って逃げてきたAとBを乗せて逃げたのは、逃亡の事後従犯であり共謀罪は成立しないとし、また下見についても被告人に正犯の意思はなく、これも従犯にあたり、窃盗罪のほう助が成立すると主張します。
一方、検察側はAとBと被告人が3人で謀議して犯行に及んだものであり、また被告人はAとBとの3人で共同生活を続けており、運命共同体を形成していたものであり、この流れで犯行の下見を行ったり、エンジンをかけて車で待機していたのは、実行犯として窃盗することを意図していたに他ならず、共同共謀正犯が成立すると主張します。
この状況の中で、被告人の父親が弁護側の情状証人として出廷したのですが、弁護側との打ち合わせがしっかりできていなかったのか、息子を信用しすぎたのか、裁判をなめていたのか分かりませんが、少しずれた答弁をしていました。
証人訊問(被告人の父親40代後半)
弁護人
この状況の中で、被告人の父親が弁護側の情状証人として出廷したのですが、弁護側との打ち合わせがしっかりできていなかったのか、息子を信用しすぎたのか、裁判をなめていたのか分かりませんが、少しずれた答弁をしていました。
証人訊問(被告人の父親40代後半)
弁護人
被告人が家を出ていることは、心配ではありませんでしたか。
証 人
アルバイトをちょこちょこと変わっていましたが、仕事をしていたので心配していませんでした。
証 人
アルバイトをちょこちょこと変わっていましたが、仕事をしていたので心配していませんでした。
弁護人
今回の窃盗の関与についてはどう思いますか。
証 人
本人の意思でやったのか。もしやったとしたら自分の強い意志をもっていなかったのだと思います。今でも関与したとは思っていません。
弁護人
今後は被告人をどのように指導・監督しますか。
証 人
普段からもアドバイスはしていますが、今後は目標を立てて歩いていけるようにということと、悪友とは縁を切って生活するように指導します。
検察官
事件当時被告人はどこに住んでいましたか。
証 人
大阪にいました。
検察官
AとBと被告人の関係についてどう思いますか。
証 人
BはAに騙されています。息子もAに騙されています。
検察官
被告人には少年時代に前歴があることを知っていますか。
・・・ここで弁護人が異議を申し立てたので、検察官はこの質問を撤回しました。
裁判長
保釈金の50万円は誰が出しましたか。
証 人
私が出しました。
裁判長
被害者に損害を与えていますが、被害弁済の考えはありますか。
証 人
息子は関係ないので、被害弁済は考えていません。
裁判長
争点は息子さんが主犯か従犯かという点で、有罪か無罪かではありません。勘違いしないように。
被告人質問
弁護人
被告人は、Aとの関係で犯行に手を染めたということですか。
被告人
犯行時の状況がフラッシュバックで残っています。取り返しのつかないことをしてしまいました。Aに金を返してもらえるのかという弱みを握られてしまいました。
弁護人
今回の犯行についてどう思っていますか。
被告人
判断ミスでした。他人を巻き込んで迷惑をかけました。
弁護人
保釈後も設備工として働いているとのことですが、現在の状況はどうですか。
被告人
仕事はコロナの影響は受けていません。充実しています。
弁護人
今後Aとの関係はどうしますか。そしてAに預けているお金はどうしますか。
被告人
Aとは縁を切ります。返してもらっていないお金は諦めます。時間がもったいないので。
弁護人
被害者に対してどう思っていますか。
被告人
罪悪感があって、謝って済む問題ではないですが、謝りたい。
検察官
質店の店舗の修復費用についての弁済についてはどう考えていますか。
被告人
弁償する必要があると思いますが、Bが「俺がはらう。」と言ったので関知していません。
裁判長
被告人の前歴記録にある、少年時の原付バイクの占有離脱物横領罪について、どう考えていますか。
被告人
16歳の時の話で、自分ではありません。知らなかったのです。
裁判長
今回の事件で催涙スプレーを用意したのは誰ですか。
被告人
Aが用意しました。自分はAに「絶対やめろ。強盗になる。頭おかしいぞ。」と言いました。
論告求刑
論 告
弁護人は「被告人は犯行の意思がなかった。被告人の行動は心理的な意思であり、犯行ほう助でしかない。」と主張するが、3人で謀議して犯行に及んだことは明白である。下見行為や、犯行当日にエンジンをかけて車で待機していたことから、共同共謀正犯の成立は間違いなしと思料する。被告人は、実行犯として犯行に及んでおり、窃盗することを十分に認識していたと考えられる。動機に酌量の余地はない。店員に一番高い物を出させて下見をし、損害の30万円も賠償されていない。罪を仲間に押し付けるなど悪質である。
求 刑
被告人に懲役2年を求刑する。
弁護側最終弁論
被告人には窃盗罪のほう助が成立します。Aから金を返してほしいという一念で、Aと行動を共にしていただけで、犯行当日に質店の前で車で待機していて、走って逃げてきたAとBを乗せて逃げたのは、逃亡の事後従犯であり共謀罪は成立しません。また下見についても被告人に正犯の意思はなく、これも従犯にあたります。2日間質店の店舗前も含め店舗に滞在していましたが窃盗の実行はありませんでした。
被告人最終陳述
これからは自分の意志をしっかり持って、正しいことを他人に迷惑をかけないようにやっていきたいと思います。
裁判の向う側
今回の裁判では、「質屋ダッシュ」グループの内の一人で、下見役と車での待機役をした容疑で起訴された被告人の父親が、証人として出廷しました。この父親、息子から何を聞かされていたのか分かりませんが、息子は無実とでも思っていたのでしょう。法廷に入る際にも廻りを睨みつけるように入り、証人席には足を広げて胸を反らして座り、どや顔の偉そうな態度で質問に答え、特に検察官の質問には反抗的に答えていました。ところがこの父親、裁判長の一言で一瞬にして沈みました。「争点は息子さんが主犯か従犯かという点で、有罪か無罪かではありません。勘違いしないように。」法廷を出る際には、入ってきた時とは打って変わって少しうなだれていました。息子を信用するのもいいですが、現実をしっかりと見つめてほしいですね。
それにしても、おれおれ詐欺や質屋ダッシュ、若者は実にさまざまな悪事を考え付くものですね。それだけの知恵があるのであれば、その知恵を善い方向に向ければ成功もできるでしょうし、社会からも賞賛されるのに、惜しい話ですね。
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