2020年5月8日金曜日

【裁判傍聴記】キャッシング詐欺・健康保険証を偽造してカードローン契約

急にまとまった金が必要な時に借金するしかないときは、ひと昔まえの昭和の時代には利息トイチの街の闇金、今はネットで審査完結のカードローンの時代になっています。被告人は、ゲームアプリで課金して借金が膨張したため、健康保険証を偽造してネットでカードローンを契約し、カードローン会社からキャッシングカード1枚を騙し取りました。

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資料写真(Pixabay)
罪 状 詐欺(キャッシング詐欺)
被告人 40代前半男性
求 刑 懲役1年6月

怖い世の中です。カードローンが会社の窓口に行かずともネットからの手続きで即日契約でき、初回で50万円以下なら30日間無利息で借金できるのです。もっとも30日間以内に返済できるなら、借金しないと思いますが。

裁判所の民事法廷では、聞き覚えのあるカードローン会社と債務者が原告・被告入れ替わり立ち替わりに、貸金の返済を求めて訴訟したり、借金の高すぎた利息の返済を求めて訴訟したりと、驚くほど多くの事件が扱われています。それは安易にお金を借りる人の数が圧倒的に増えているということを示しているのだと思います。

今回、被告人は札幌市に住んでいて、犯行も札幌市の自宅のパソコンで行っていますが、キャッシング詐欺が成立したのが、滋賀県のカードローン会社のコンタクトセンターだったということで、滋賀県の警察が動き大津地方検察庁が起訴することとなり、大津地裁で裁判が行われています。


事件の概要

平成28年4月〇日、札幌市に住んでいた被告人は、カードローン会社Aとネットでカードローン契約をするため、ネット上の申請書の個人情報を同僚の名前を使い、住所は自分の住所として虚偽の内容で登録しました。

そして、その後に必要になってくる個人確認書類については、自身の健康保険証をコピーして、個人情報欄を同僚の名前として虚偽の内容に書き換えて偽造し、その写真をネット上で送信しました。

滋賀県にあるカードローン会社Aのコンタクトセンター(ネット契約センター)は、送信された偽造の健康保険証を正規のものと誤信して、カードローン契約を締結し、キャッシングカードを申請書記載の被告人の住所に送付しました。以て被告人はキャッシングカード1枚を詐取したものです。

その後、カードローン会社Aのコンタクトセンターが、被告人から送信された健康保険証の勤務先の会社の同僚宛に確認のため電話したことから、健康保険証が偽造であることが判明し、キャッシング詐欺が発覚したものです。

被告人は、以前に自身の名義でカードローン会社Aから100万円借金し、焦げ付かせた経験があり、ブラックリスト化して以後の契約は審査が通らないため、架空の他人の名義で契約したのです。

被告人は高校を中退後、飲食店を転々とした後事件当時は、コールセンターで働いていました。被告人には2度の離婚歴があり、現在は別の同棲中の女性がいます。被告人には前科前歴はありません。

被告人は、携帯電話のゲームアプリで課金し、1度に30万円使ったこともあり、現在は200~300万円の借金があります。被告人は被告人質問で弁護士からの質問に「振り返るとゲーム依存症だったと思います」と答えています。

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資料写真(Pxhere)
被告人は、以前にもゲームアプリの課金で、100万円をカードローン会社で借りていましたが、カードローン会社には当時同棲していた女性の母親に金を借りて返済し、その母親には車を売却して返済していました。


起訴状朗読

検察官が起訴状を朗読します。


罪状認否

裁判長が被告人に黙秘権を告げた後、検察官の起訴状に対する認否を確認します。

被告人 間違いありません
弁護人 被告人と同意見です。


冒頭陳述

検察官が、事件の概要で記載した内容を陳述し、証拠調べを申請しました。弁護人が検察官の申請した証拠について全て同意したため、検察側の証拠調べに入ります。


検察側証拠調べ

検察側証拠として、横浜市にあるカードローン会社Aのデータサーバのデータベースから抽出した被告人が登録したデータや送信した健康保険証の写真データと、詐取したキャッシングカードがATMで使用された状況、被告人がカードローン会社Aとの契約のために使用したノートパソコンが盗んだものであることなどが、証拠として取り調べられました。


弁護側証拠調べ

弁護側は、札幌市内で看護師をしている被告人の実母を、情状証人として承認訊問申請しました。検察側が「然るべく」としましたので、証人訊問が行われました。


証人訊問(被告人実母)

弁護人
証人は被告人とはどういう関係ですか。
証 人
母親です。札幌で看護師をしています。息子とは別に一人で暮らしています。

弁護人
被告人の生活状況を教えてください。
証 人
一緒に暮らしている女性がいて、二人で私の家から車で30分くらいの所に住んでいます。その女性とは結婚を考えていると聞いています。

弁護人
被告人が逮捕されたことはどうやって知りましたか。
証 人
警察からの電話で知りました。電話を受けたときは、びっくりして信じられませんでした。相当負債を抱えていたと聞いてします。

弁護人
被告人には今後どう生きて行ってほしいと思いますか。そのために証人はどうしようと考えていますか。
証 人
息子には今後は正しい道を歩んでほしいと思っています。そのためには一緒に住んでいる女性と連絡を取り合って、息子の生活を監視していきたいと考えています。

弁護人
普段、被告人から連絡はありましたか。
証 人
逮捕される前は、1~2ヶ月に1回くらいの割合で連絡してきました。逮捕された後に保釈されてからは日に1回連絡してきています。

弁護人
被告人が借金していたことや、ゲームをしていたことを知っていましたか。
証 人
借金は分かりませんでしたし、ゲームに使っていことも想像もできませんでした。

弁護人
被告人に再犯させないために、証人として具体的にできることを教えてください。
証 人
一つ目は、再犯防止に向けて本人と約束します。二つ目は、仕事に就かせます。三つ目は、ゲーム依存症について病院で受診します。四つ目は、借金返済のサポートをします。五つ目は、息子が同棲している女性と連絡をとります。

弁護人
現在の被告人の状況を教えてください。
証 人
今は、ゲームをせずに真面目にしています。今後も監視して更生させます。

検察官
被告人の現在の就職活動の状況はどうですか。
証 人
1か所目は先方から断られました。2か所目は本人が合わなかったということで、仕事は未だ決まっていません。

検察官
ゲーム依存について、現在の状況はどうですか。
証 人
現在病院を探しています。見つかれば同伴して受診させます。

裁判長
被告人は現在どうやって生計をたてていますか。
証 人
生活保護を受けています。


被告人質問

弁護人
被告人は、現在生活保護受給中ということですが、今後はどうしようと考えていますか。
被告人
今後は、就職活動して二人で就職して、できれば正社員としたいですが、短期バイトでもよいので、生活保護を脱却したいと考えています。

弁護人
現在の就職活動は具体的に説明してください。
被告人
保釈後に行っていた工場のバイトは辞めました。事前の説明と現場が異なっていたので辞めました。具体的には、面接のときに希望していた部署は無理だと云われました。今後もあきらめずに就職活動していきます。

弁護人
携帯ゲーム課金について聞きます。具体的にはどの程度使っていたのですか。
被告人
1度に30万円使ったこともあります。振り返るとゲーム依存症だったと思います。

弁護人
現在の借金の額は。
被告人
200~300万円です。

弁護人
借金は今後どのように返済するつもりですか。
被告人
2人で働いて、生活費は折半して残った分で返済していきます。

弁護人
債務整理は考えていますか。
被告人
考えています。

弁護人
今後更生していくための方策はありますか。
被告人
医療機関で治療を受けます。母親の指導監督に従っていきます。まもなく40代半ばで、定職に就いていなければいけない年齢です。自分自身で管理して生きていけるように、自助グループの助けも借りて、人として変わっていきたいと思います。

弁護人
最初のカードローン会社Aの借金100万円はどうしましたか。
被告人
当時同棲していた女性の母親に借りて返済しました。その母親には自分の車を売って返しました。

弁護人
他にも同様のことをしていますか。
被告人
はい。

検察官
先ほどの弁護人の質問を具体的に確認します。他にも今回と同様に架空の健康保険証を作って、キャッシング詐欺をした経験があるということですか。
被告人
そのとおりです。

検察官
今後就職活動がうまくいかなかった場合どうしますか。
被告人
うまくいかないことは考えていません。最低限の生活費で生活し、就職先は思いどおりのところが選べなくてもしようがないと思っています。

検察官
ゲーム依存は反省していますか。
被告人
警察の留置場で反省しました。自分に弱いところがあるので、病的な部分は治したいと思っています。今後母と一緒に通院します。

検察官
200~300万円の借金は債務整理するということですか。
被告人
しっかり返済したいという気持ちはありますが、債務整理したいとも思っています。

裁判長
被告人は私と同じ世代です。これからがんばってください。


論告求刑

論 告
被告人の犯行は巧妙で悪質な犯行で、動機に酌むべき理由はなく、身勝手なものである。

求 刑
被告人に懲役1年6月を求刑する。


弁護人最終弁論

被告人は、警察に逮捕された際に正直に事実を告げ、反省しています。被告人の母親も更生に向けて協力することを約束しています。
被告人には働く意欲もあり、一般社会内で更生させることが肝要かと考えます。

よって、被告人には執行猶予付の判決を希望します。


被告人最終陳述

被害を与えた方々に深くお詫び申し上げたいです。今後は二度と同じような過ちは繰り返しません。逮捕されたことを再スタートと考え、生きていきたいと思います。


裁判の向こう側

インターネットでカードローンを検索すると、さまざまな会社が現れてきます。その中には有名な銀行系の会社もあります。「初回限定50万円までなら30日間無利息で融資します」などのうたい文句もあり、お金に困っている人なら思わず飛びついてしまいそうな条件です。審査もブラックリストに載っていなければ、簡単に終わるところも多いです。

しかし、世の中そんなに甘いものではありません。利息制限法はありますが、利息は一般の金融機関の借り入れよりは数段高く、以前の闇金の取り立てのようなことはないにせよ、返済に関する督促も厳しいでしょう。

ですから、安易にカードローンを選択するのは考えものです。今世間は新型コロナウィルスの影響で金無し状態が続いており、金に困っている人は相当数おられるでしょうが、今少し奥歯を噛みしめて辛抱して、安易にカードローンに走ることのないようにされたいと思います。

今回の事件のような、キャッシング詐欺は多いようです。カードローン会社も少額の被害であれば、警察沙汰にしないようです。被害届などの手間を考えると、少額の被害は貸し倒れ処理した方が合理的だからだそうです。

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