2020年5月15日金曜日

裁判傍聴のすすめ その8 「新型コロナウィルス雇用トラブル解決に向けて」

令和2年は、「中国の武漢で新型コロナウィルスの感染が発生し、猛烈な勢いで拡大している」とのニュースでスタートしました。この流れは、瞬く間に全世界に広がり、日本でも急速に拡大してきました。社会ではテレワークが始まり、一部の業界に休業要請も出るなか、景気は急激に落ち込み、私たちの生活にも、雇用に関する問題が徐々にクローズアップされてきました。

今回は、この雇用に関する問題に、裁判所はどのように関わってくれるのか、最高裁判所のリーフレットを参考に見ていきたいと思います。

新型コロナウィルス雇用トラブル解決に向けて

新型コロナウィルスの影響で、世界経済はリーマンショック以上、あるいは世界大恐慌以上と云われるほどに落ち込んでいます。2020年5月中旬現在、感染拡大は鎮静化に向かうかのような兆しが見えてきたようですが、第二波・第三波の感染拡大も予想されています。このような中、今後「緊急事態宣言」が解除されたとしても、経済が回復するには相当時間がかかると思われます。長引く景気の悪化で経営破綻に陥る企業が続出し、それは雇用に直結して、採用内定取り消しや解雇・雇止め・給料未払い・給料減額で苦しむ人たちが多数出てくることでしょう。


そんな時、自分の身を守るためにはどうすればよいのか、この先考えておく必要があると思われます。雇い主から「コロナが原因なんやからしゃあないやん」と言われても、自分や家族の生活が成り立たなくなるのですから納得できるわけがありません。
 
そんな時、まずは相談できるところを探して相談しましょう。厚生労働省のホームページでは、主な相談窓口として次を紹介しています。

・労働条件について、平日夜間・土日・祝日に無料で電話相談できる窓口

賃金未払や賃金カットなどの労働条件 相談ホットライン
0120-811-610 平日午後5時~午後10時 土日・祝日午前9時~午後9時

・労働条件や雇用に関するトラブルについて相談や救済を申し立てる公的な機関
①労働基準監督署
②ハローワーク
③労働局総合労働相談センター
④法テラス(日本司法支援センター)
⑤弁護士会の法律相談センター
⑥都道府県労働局


最終的に法的な解決を図りたいときは、裁判所の手続きに移行することになるでしょう。

最高裁判所のリーフレット「雇用関係のトラブルを解決したい方のためにー裁判所の手続きー」を参考にして、裁判所での法的な解決について見ていきましょう。

「働いたのに給料を払ってもらえない・・・」
「残業代を払ってもらわないと困るわ・・・」
「解雇したのがおかしいとは思わないが・・・」(雇用側)

こんな事態に遭遇した場合の、雇用関係のトラブルを解決する裁判所の手続きには、「民事調停」「少額訴訟」「民事訴訟」「労働審判」など様々なものがあります。各手続きにはそれぞれ特徴があり、トラブルの実情などを踏まえて、どの手続きを利用するのが良いのか充分に検討することが大切です。


[民事調停手続](簡易裁判所)

従業員と雇用主双方が裁判所の中で話し合って解決を図ります。

民事調停手続は、調停主任(裁判官又は調停官)と一般国民から選ばれた調停委員2名以上が調停委員会を構成し、簡易な事案から複雑困難な事案まで実情に応じた話し合いによる解決を図る手段です。

双方が話し合うことを基本としていますので、必ずしも詳細な主張書面や証拠を必要としませんし、弁護士や社会保険労務士等が調停委員となることもありますので、自分1人でも手続を行うことができます。

相手方が話し合いに応じなかったり、合意に至らなかったりするときは、手続が打ち切られることがありますが、この場合でも裁判所が相当と認める解決案を示すことがあります。


[少額訴訟手続](簡易裁判所)

比較的単純で解決金60万円以下の支払いを求める場合の手続きです。


少額訴訟手続は、原則として1回の審理で判決がされる特別な訴訟手続で、60万円以下の金銭の支払いを求める場合にのみ利用することができる手続きです。

裁判官と裁判所書記官の前で、原告と被告が証拠書面などで双方が意見を主張し、裁判官が判決します。

手続には、一般国民から選ばれた司法委員が関与することがあります。

比較的単純な事案の解決に有効な手続であり、証拠等の事前準備が必要となりますが、自分1人でも手続を行うことができます。

少額訴訟手続の判決では、分割払いや支払いの猶予を定めることもできます。なお、相手方が少額訴訟手続を拒否した場合等には、通常の訴訟手続に移行します。


[民事訴訟手続](簡易裁判所・地方裁判所)

通常の民事訴訟の手続きで判決によって解決を図ります。

民事訴訟手続は、裁判官が双方の主張を聴いたり、証拠を調べたりして、最終的に判決によって解決を図る手続です。訴訟の途中で話合いにより解決することもできます。

厳格な手続の下、主張と証拠に基づいて権利関係を明らかにしていく手続であるため、当事者は、証拠の提出と主張を的確に行う必要があります。したがって法律の専門家である弁護士等に依頼することが望ましいでしょう。

求める金額によって、取り扱う裁判所が異なります。
140万円以下の請求  ⇒ 簡易裁判所
140万円を超える請求 ⇒ 地方裁判所

時間外手当の未払い分の請求に関する民事訴訟の裁判を傍聴しましたが、被告の雇用主側は必ずといっていいほど弁護士を代理人に立ててきますので、原告である従業員側も弁護士に依頼しないと公判の維持は難しいでしょう。証拠等についても裁判官は専門用語で説明しますので(解説などしてくれません)、専門の弁護士がついていた方がよいでしょう。


[労働審判手続](地方裁判所)

裁判官と労働関係の専門家の労働審判官2名が労働審判委員会で解決を図る手続きです。

労働審判手続は、労働審判官(裁判官)と労働関係の専門家である労働審判員2名が労働審判委員会を構成して、原則として3回以内の期日で、はなし合いにる解決を試みながら、最終的に審判を行う手続です。

訴訟手続と同様に権利関係を明らかにする手続のため、事前に証拠等を準備して、主張を的確に行う必要があります。したがって法律の専門家である弁護士等に依頼することが望ましいでしょう。

審判に不服がある場合や、事案が複雑で争点が多岐にわたるなど、この手続を行うことが適当でないと認められる場合などには、訴訟手続に移行します。


[手続Q&A]

Q:雇用関係のトラブルで悩んでいます。裁判所に調停または訴訟などの申立てをしたいのですが、どのような書類が必要でしょうか。

A:申立てにあたっては、次の書類が必要です。

・申立書(訴訟を起こす場合は「訴状」といいます)
・申立手数料(収入印紙・訴額によって異なります)および郵便切手
・相手方が法人の場合は、登記事項証明書

また、申立ての際には、雇用関係の詳細が明らかになる次のような基本的な書類のうち、入手可能なものを用意してください。

・雇用関係、賃金または退職金の額が分かる書類
具体的には、雇用契約書・就業規則(賃金規程または退職金規程)、給与支払明細書、源泉徴収票、求人広告など
・勤務した時間または退職した事実が分かる書類
具体的には、出勤簿、タイムカードまたは退職証明書など
・解雇の時期、理由が分かる書類
具体的には、解雇通知書、解雇理由書など


[裁判所の手続を利用される方へ]

雇用関係のトラブルを解決する手続は、紹介した手続以外にも、仮処分手続や支払督促手続等があります。

各裁判所の窓口には、裁判所における各種手続を分かりやすく説明したリーフレットの他、調停申立書や少額訴訟手続の訴状などの定型用紙も備え付けてあり、手続の概要や申立ての方法について説明を受けることができます。


お互い諦めずに頑張りましょう
 
5月14日、新型コロナウィルスに関する「緊急事態宣言」は、東京他8府県を除き39の県で解除されましたが、これで新型コロナウィルスの感染が終息したとは到底考えられません。私たちは、この先も徹底した感染対策を行って、感染爆発を起こさないようにする必要があるのと同時に、経済的に立ち行かなくなっている現実をしっかり見つめ、決して軽はずみな行動に走ることのないようにしましょう。

雇用についても、しっかりと対応して、それでだめになっても道はあります。とことんがんばってそれでもダメな場合は、最後は生活保護を受給して公営住宅に移って再起を図ることもできます。そのほかにもいろいろな道がきっとあります。

お互い決して諦めずに頑張りましょう。

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