2020年2月3日月曜日

【裁判傍聴記】世間を賑わせた「7pay」詐欺事件の公判でした

被告人は、令和元年に発覚したスマホによるキャッシュレス決済「7pay」の詐欺事件で、末端の実行犯として逮捕されました。「7pay」は一連の同種事件をきっかけに、セキュリティ対策の甘さが指摘され、スマホによるキャッシュレス決済から撤退することとなりました。

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資料画像(Pixabay)
罪 状 詐欺、不正アクセス禁止法違反
被告人 20代後半女性(中国籍) 
求 刑 懲役2年6月 


事件の概要

今回の事件は、令和元年に世間を賑わせたスマホによるキャッシュレス決済サービスの「7pay」を、サービス開始からわずか3か月で撤退に追い込むきっかけとなった事件です。

「7pay」は、7月1日にサービス開始しましたが、今回の事件他一連の事件でセキュリティ対策の甘さが指摘され、今後の事業の継続が不可能と判断し、9月末にはスマホによるキャッシュレス決済からの撤退を決めたとされています。

被告人は、SNSを通じて知り合った「A」なる人物から送られてきた他人名義の「IDとパスワード」を用いて、自身のスマホ端末に「7pay」アプリをインストールしました。これで被告人のスマホ端末はキャッシュレス決済ができるようなりました。

そして7月3日、被告人は関東圏のコンビニの店頭で「電子たばこ用スティック330本(販売価格約16万5千円)」を、他人名義の「IDとパスワード」の「7pay」のスマホ決済で購入し、これを騙し取ったのでした。

その後、滋賀県在住の会社員の被害届で滋賀県警の「サイバー犯罪対策課」が捜査し、被告人が使用した「IDとパスワード」が被害者のものであることが判明し、被告人は滋賀県警により「詐欺」「不正アクセス禁止法違反」の容疑で逮捕されました。

被告人は、逮捕された当初は否認していましたが、その後の捜査で自身のスマホに他人の「IDとパスワード」で「7pay」のアプリをインストールしたこと、コンビニで電子たばこ用スティックを騙し取ったことなどを認め自供しました。

被告人は、中国ではホテルで秘書として働いていましたが、最近来日し輸入代理業で生計をたてていました。被告人には、中国でも日本でも前科・前歴はありませんでした。

7月1日にサービス開始した「7pay」は、今回の事件の他に不正アクセスで使用された「IDとパスワード」の「被害者は808人、被害金額も約3800万円」に上りました。
この事件で、他人の「ID・パスワード」が外部に流出した原因は判明していませんが、システム上のセキュリティ対策に不備があったことは明らかになっています。また危機管理体制についても不備があって緊急時の対応遅れも被害拡大につながったものと考えられています。

令和元年の消費税アップに伴って実施された「キャッシュレスポイント還元」と同期して華々しく開始したサービスが、わずか3か月で撤退に追い込まれたきっかけとなった事件の公判でしたので、傍聴席もマスコミや一般傍聴人で満席かと思いましたが、マスコミはゼロ、一般傍聴人も私一人という状況でした。日本人は熱しやすく冷めやすいというのが、よーく分かりました。

被告人質問

被告人質問は、中国語の通訳を介して行われました。

弁護人
今回の事件についてどう考えていますか。
被告人
大変申し訳ないことをしたと反省しています。

弁護人
被告人と「7pay」の間で成立した示談の示談金「65万円」は、誰が準備しましたか。
被告人
中国にいる父親です。

弁護人
お父さんに用立ててもらった示談金は、どうするつもりですか。
被告人
中国に帰って働いて返すつもりです。

弁護人
社会復帰後はどうするつもりですか。
被告人
中国に帰って働くつもりです。

弁護人
中国に帰った場合、何をして働きますか。
被告人
以前中国では、ホテルで秘書をしていました。中国に帰った際にはホテルの事務として働こうと思っています。

弁護人
今までやっていた輸入代理業はどうするつもりですか。
被告人
輸入の仕事は、相手国の法律もいろいろあり難しいのでやめます。

検察官
「A」なる人物から送られてきた「IDとパスワード」が疑わしいと思わなかったのですか。
被告人
分かりませんでした。

検察官
「A」から送られてきたメールは、Yahoo.mailやG.mailでしたが、中国国内でこれを使っている人を知っていますか。
被告人
自分の身近にはいません。その他の人については分かりません。


論告・求刑

被告人は、本件犯行が不正アクセスは大胆かつ巧妙で、悪質である。
被告人は、矯正施設で更生するのが相当と思料する。

被告人に懲役2年6月を求刑する。


弁護人最終弁論

公訴事実は争いません。
情状について、被告人は反省し謝罪しています。弁護人を通じて被害者と示談を進め、父親の助けも借りて示談金も準備しました。
被告人は、社会復帰後は中国に帰り働き、二度と犯罪を犯さないと誓っています。
また、今後は輸入代理業については、行わないことも誓っています。

被告人は2か月半に及ぶ長期の拘留で、既に社会的制裁を受けています。

以上から、被告人には執行猶予の付いた判決を希望します。


裁判の向う側

今回の一連の事件では、未だ首謀者が判明していません。つまり、「7pay」のサーバーに侵入して、実在の契約者の「ID・パスワード」を盗み出し、SNSを通じて全国の共犯者に流布した人物です。一時は中国からの侵入経路を疑った説もありましたが、明白ではありません。今回の公判でも検察官の被告人質問では、中国からの侵入経路に関する質問もありましたが、被告人は分からないと答えていました。結局、事件の首謀者不詳のまま、事件の全貌も明確にならないままで、「7pay」の認証システムのセキュリティ対策が不充分であったことを指摘され、早期の対策が不可能ということで、事業者はサービス停止に追い込まれました。なお、この不正アクセスによる個人の被害者の損失は、すべて「7pay」が補償したということです。

政府は消費税増税に伴ってキャッシュレス決済を推し進めるという大義名分で、キャッシュレスポイント還元も導入しました。また世界の流れもスマホ決済が主流化しつつあるなかで、日本国内のソフトバンクやLINE、メルカリなどのIT業界もスマホ決済への参入を急ぎました。

「7pay」はコンビニ大手のセブン&アイホールディングスが、この流れからスマホ決済に参入したものですが、残念なことにセキュリティ対策の甘さにつけ込まれて、サービス開始からわずか3ケ月で撤退を余儀なくされたのでした。

それにしても、「IDとパスワード」を不特定の共犯者に配布した首謀者とされる人物の目的は何だったのでしょうか。金目的であれば、自身が使えばよいと思うのですが、「ID・パスワード」を不特定多数に配布しているものの、設けの一部を得ている訳でもありません。不思議な事件でした。

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