2019年12月24日火曜日

【裁判傍聴記】前刑の執行猶予期間中にSNSを使った「チケット詐欺」で逮捕

被告人は、入手困難なコンサートやイベントのチケットを転売すると自身のツイッターで購入を募り、購入希望者から代金を自身の口座に入金させるもののチケットを送付しなかったため、被害者の告発で警察が捜査した結果、詐欺の容疑で逮捕されたものです。被告人は、前刑で有罪判決を受け執行猶予期間中の犯行でした。

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資料画像(Pixabay)
罪 状 詐欺
被告人 30代前半男性
求 刑 懲役3年

事件の概要

被告人は、平成30年6月頃からSNSで知り合ったという「主犯格の男A」の手伝いとして、「自身のツイッター」で入手困難なコンサートやイベントのチケットの転売の告知を始めました。購入希望者は被告人のツイッターにアクセスして、購入代金を被告人名義の口座に振り込ませ、被告人が入金を確認後、Aが購入者にチケットを送付するというものです。

被告人の供述によりますと、このビジネスの役割分担は次のとおりです。チケットの入手と購入希望者へのチケットの送付はAで、チケット転売の告知と購入希望者とのやり取りと代金の収受は被告人というものです。被告人はチケット代金が被告人の口座に振り込まれるとAに連絡するとともに振り込まれたチケット代金を全額をAに送金します。被告人からチケット代金が振り込まれたという連絡を受けたAは、購入者にチケットを送付します。被告人はその後に主犯格の男Aから利益の3割の取り分を受け取るということにしていましたが、被告人はAから借金していたということで、その返済に充てるため、逮捕されるまで取り分を受け取ったことはないと供述しています。

その後、平成30年8月頃から被告人のツィッターに「購入したチケットが届かない」というクレームが入り始めました。被告人がこのことをAにSNSで相談すると、「携帯が壊れたので送付が遅れている」「交通事故にあってチケットが送付できない」などの購入者への言い訳テンプレートが送付され、被告人はこの言い訳を購入者にツイッターで返信していました。

その後も購入者からのクレームは増え続けましたので、平成30年9月中頃には被告人はこれは「詐欺」だと疑い始めました。被告人は9月・10月は自身の行為があやしく「詐欺」の可能性があると思いながらも続けたと供述しています。

事件は被害者の告発で警察が捜査を開始し、実行犯である被告人が逮捕されることとなりました。被告人は平成30年に「住居侵入・窃盗」の罪で有罪判決を受けた前刑の執行猶予期間中でした。(執行猶予期間中の犯行ですので、有罪が確定すれば実刑は免れることはなく、前刑の執行猶予も自動的に取り消されます。)

被告人は、この事件はSNSで知り合った男Aが主犯格で、被告人自身は最初は詐欺と知らずにビジネスとして手伝っていたと供述し、SNSを通じてのみの知り合いのためAには会ったことがなく、またAの氏名や住所は教えたくないとも供述しています。ところが、警察の調べで被告人のパソコンやスマートホンのメールやライン、ツイッターの交信履歴、通話記録にはAとのやり取りは全く残っていませんでした。また同様にメモリーに保存されたデータにもAの存在を示す内容も全く残っていませんでした。このことから、検察は元々Aなる人物は存在せず、「被告人の単独犯行」であったと判断しています。

被告人は、弁護士を通じて被害者5名と示談交渉し、内1名とは示談が成立しましたが、残る4名は示談に応じてもらえていません。なお、被害者の5名というのは被害届を出した方の人数で、実際の被害者の数は不明です。


証人訊問

弁護側の立証として、被告人の実母が弁護側情状証人として出廷しました。

弁護人
証人は被告人とどういう関係ですか。
証 人
実の母親です。

弁護人
被告人はどういう性格ですか。
証 人
この子は明るく素直な子供でしたが、幼いころに私が離婚しましたので自分を表に出さないようになりました。

弁護人
平成30年の被告人の裁判の際には証人としての出廷を拒否されましたが、何故ですか。
証 人
あのときは非常に怒っていましたので、証人として出ませんでした。執行猶予が付いてこれが最後だと思って、帰ってくるのを許しました。

弁護人
執行猶予期間中の被告人と同居していた時期に、被告人がチケットの転売をしていることを知っていましたか。
証 人
当時は家の外で仕事をしていることはありませんでしたが、チケットの転売をしていたことは知りませんでした。

弁護人
今回の事件で被告人に再犯させないための対策は?
証 人
保釈後に車の免許を取らせ、工場で住み込みで働かせました。

弁護人
今後証人が被告人に再犯防止のための指導・監督をするにあたっての方策は?
証 人
仕事をさせます。


検察官
今回の犯行の原因を聞いていますか。
証 人
聞いていません。

検察官
前刑の執行猶予期間中の証人と同居していた時期に「チケット詐欺」を働いていたことについてどう思いますか。
証 人
信じていただけに残念です。

検察官
今後被告人の指導・監督のために同居しますか。
証 人
別居して指導・監督します。メールや手紙のやり取りで監督できると思います。もし家に来るときは受け入れます。


被告人質問

弁護人
チケットは全て購入者に届かなかったのですか。
被告人
届いたものもあったと思います。

弁護人
被害者の方に対してどういう気持ちか?
被告人
迷惑をかけて真に申し訳なく思っています。

弁護人
被害者5名と示談交渉して、1名の方と示談が成立しましたが、今後必要となる弁済金は用意できますか。
被告人
働いて用意します。

弁護人
現在の仕事の状況は?
被告人
保釈後11月5日から工場アルバイトで働いていましたが、11月14日の出勤途中に交通事故に遭い全治2週間の診断を受けて、完治まで働けなくなっています。


検察官
チケット転売についてどう思っていましたか。
被告人
チケットの転売は特にあやしいとは思っていませんでした。チケットの転売自体は問題ないものと考えています。

※令和元年6月14日から「チケット不正転売禁止法」が施行され、業としてチケット転売することは禁止されています。

検察官
主犯格の男Aなる人物に借金をしているということですが、返済額はいくらですか。
被告人
分かりません。

検察官
平成30年8月頃からクレームが増え続けたということですが、クレームの都度Aに相談していたのですか。
被告人
その頃には、前日別の購入者に返信した言い訳の内容をコピペして、当日のクレームの返信に使っていました。

検察官
SNSで知り合ったAなる人物の本名と住所は教えられませんか。
被告人
Aの本名や住所は答えられません。

検察官
Aなる人物は架空なのではありませんか。あなたのラインやツイッター、パソコンのハードディスクにもAなる人物とのやり取りや記録はどこにも見当たりませんよ。初めから一人でやっていたのではありませんか。
被告人
AとはSNS上だけの知り合いです。

検察官
先程弁護人の質問にチケットが購入者に届いたものもあったと答えましたが、あなたのラインやツイッターには購入者からのメールは残っていませんよ。
被告人
それはよく分かりません。


裁判長
銀行のカードが止まった頃から「詐欺」と確信したということですか。
被告人
9月18日のイベントのチケットが届かないというクレームがあって「詐欺」と疑い始めましたが、銀行のカードが止まって「詐欺」と確信しました。

裁判長
被害者に対して言っておきたいことはありませなんか。
被告人
被害者の方に迷惑をかけて申し訳ありません。今後犯罪行為を行わないことをここで誓います。


論告・求刑

論 告
被告人の犯行は常習的で、態様は悪質である。

平成30年8月頃からのチケットが届かないとの購入者からのクレームに対してAが対応すると伝えて後、自身は連絡を断ち、またチケット転売についても問題ないと供述するなど規範意識が鈍磨し、また反省も見られない。

仕事も不安定で、指導・監督するという実母とも別居しており、再犯の可能性があるため、刑務所に収容して更生を図ることが望ましい。

求 刑
被告人に懲役3年を求刑する。


弁護人最終弁論

公訴事実については争いません。

被告人は、当初は自分の行為が「詐欺」であるとの認識はなくチケット転売を継続していたものです。
その後、平成30年9月頃から「詐欺」だと疑いながらも続け、平成30年11月に自身の銀行口座が凍結されて「詐欺」と確信しました。

検察官はAなる人物はいないと述べましたが、被告人はAなる人物にいいように使われていたのであって、自身は反省しており再犯しないことを誓っており、実母の指導・監督のもとで再犯の可能性はないと思料します。

これらの情状を考慮して、被告人には執行猶予付きの判決を希望します。


被告人最終陳述

反省し二度と同じことはしないと誓います。


裁判の向う側

ツイッターのハッシュタグ♯チケット詐欺で検索すると、「チケット詐欺」の被害にあったとの書き込みが大量に出てきます。書き込み全てが本当かどうかわからないものもありますが、書き込みをしている人は若い人が多いように思います。被害にあっても警察に届けることもなく、SNSに書き込むだけで泣き寝いりしている人が大半のように見受けられます。また、被害者も加害者もこの行為が刑事罰を伴う犯罪だという認識も薄いように感じられます。

被告人は、SNS万能のネット社会を逆手に巧妙にかつ手軽に副業感覚で「詐欺」行為を行いました。

検察官が疑いの目を向けているように、主犯格のAなる人物が存在せず被告人の単独犯行であったとするならば、いかにも自分はただの手伝いのように見せかける、非常に巧妙に仕組んだ手口であるともいえます。

被告人は「二度と犯罪行為はしません」と反省の言葉を述べながらも、チケットの転売行為は問題ないとうそぶいており、再犯の可能性は否定できないと感じました。

SNSは、大麻や覚醒剤の取り引き、そして今回のようにチケット転売も手軽に利用されています。利用者はよくよく考えて利用することと、子供や若年者の保護者や学校はSNSの「怖さ」をしっかり教えてあげてほしいものです。

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