2019年10月18日金曜日

【裁判傍聴記】(続報⇒判決)消防の119番に偽計電話・偽計業務妨害

「偽計業務妨害」裁判の続報で、3回目の今回は「判決言い渡し」です。被告人は消防本部の通信指令室の119番通報電話に対して、10ケ月の間に239回も携帯電話で「無言電話」や「ワン切り電話」を繰り返して消防本部の業務を妨害したというものです。
裁判所が被告・弁護側の「消防の通信指令室の電話受付は、公務であって業務にあたらない。従って被告人は無罪」という主張に対しどのような判断を下すのか注目です。

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資料画像(by Pixabay)

罪 状:偽計業務妨害
被告人:70代後半男性
求 刑:懲役2年
判 決:懲役1年4月 未決勾留日数120日を算入 訴訟費用は負担させない

判決の言い渡しの日、傍聴席に座っていると黒いスーツに身を包んだ体格の良い、いかつい男性が8人、私の周りの席に座りました。何事かと思いましたが、しばらくしてこの人達は消防職員だということが分かりました。消防として今回の判決が気になるのは分かりますが、平日の法廷に8人もの消防職員が傍聴していることは少し大丈夫かなと感じました。たとえ非番の方達であったとしても、昨今の働き方改革の流れから考えるとどうでしょうか。

 事件の概要 

事件の概要は、一部前回の投稿を再掲します。

被告人は、平成30年2月から12月の間に、住所地を管轄する消防本部の通信指令室に対し、携帯電話で239回に亘って119番通報を繰り返したものです。

その電話(手口)は下記のようなものでした。
一例:「わざと自宅のテレビを大音量にしたうえ119番通報して通信指令員に話の内容を聞き取れなくする。」この119番通報を立て続けにかける。
一例:「ワン切り電話」を立て続けにかける。
などでした。その他にも様々な手口で119番通報し、被告人からの同様の119番通報は239回になったものです。

今回、判決の言い渡しの中で新たに明らかになったのは、実際に被告人が119番通報した回数です。通報回数は期間中に287回でした。その中には、実際に被告人からの「しんどい」との119番通報で救急出動して、被告人宅に到着したものの「元気になった。帰れ」と言われて救急搬送しなかったものが29回、救急搬送したものの到着した病院で被告人が「問題ない」と言って診察を受けなかったものが7回、その他緊急でないものが12回含まれています。


被告人は刑務官2人に引致されて入廷する際、見下すような冷笑を浮かべていました。何を考えているのでしょう。


 判決言い渡し 

主 文
被告人を懲役1年4月に処す。未決勾留日数120日をこれに算入する。訴訟費用は被告人に負担させない。

理 由
被告人は、平成30年2月から12月の間に239回にわたって、消防本部の通信指令室の119番電話に携帯電話で緊急通報と誤信させて電話し、もって正当な業務の遂行を妨害したものである。これは、警察と検察の捜査による証拠上容易に判明するものである。

弁護人は119番通報は偽計にあたらず、また消防本部の通信指令は公務であるから業務ではなく偽計業務妨害にあたらないと主張し、また刑事事件として立件したとしても、せいぜい軽犯罪法違反にとどまり、検察側が「偽計業務妨害」で起訴したことは「公訴権の乱用」にあたり、公訴棄却すべきと主張するが、被告人の119番通報の内容は他人を欺罔し錯誤に貶めるものであり、もって真実の緊急通報の受信に支障をきたすものであった。

被告人の119番通報は、無言通話でテレビの大音量を流したり、ワン切り通話を立て続けに掛けたり、電話口で不満や愚痴のみ話すなど緊急の通話でなかったものが287回あり、その内「しんどい」との通報で実際に救急出動したものの到着後被告人から「元気になった帰れ」と言われ不搬送になった回数29回、救急出動して病院に搬送したものの、
「問題ない」と言って診察を受けなかった回数7回、その他緊急でない回数が12回あり、その全てが緊急の通報が必要なかったものである。

弁護人は、無言の電話は身体の障害が原因であったとするが、通信指令員が被告人に送話口を指でたたいて返事するように指示したにも関わらず、送話口を叩き続けたりしたことは、欺罔であるとの合理的な疑いを禁じ得ない。

被告人は通信指令の業務は公務であり、業務にあたらないとして無罪を主張するが、過去の判例に照らしても、通信指令の業務は強制力の行使を伴わない業務であり、保護されるべき業務である。

被告人の通報は正当な業務の遂行に支障を生じさせ、災害発生に係る通報ではなく、また被告人の通報を誤信したとしても阻却するに正当な理由は見当たらない。

弁護人の公訴棄却の申し立てにについては、検察の起訴は正当なものであり、公訴権の乱用ではない。

被告人の行為は、「いたずら」の限度を優に超えたものである。

被告人の前科前歴で、無免許運転で罰金刑を受け、また警察への偽計通報で「偽計業務妨害」で実刑判決を受け懲役刑に服しているにも関らず、今回同様の犯行に及んだ。

量刑の理由
被告人が偽計をもって消防の通信指令業務の遂行に支障をきたしたことは、被告人に規範意識が乏しいと言わざるを得ない。また、被告人は「通信指令の業務は公務であって業務ではない」などと独自の判断に固執し反省がなく、再犯の可能性がある。

他方、ワン切り電話は数秒で終わっていること、被告人が高齢であること、逮捕されて以降長期の拘留で一定の制裁をうけていることなどを考慮して主文のとおり判決した。


判決言い渡しを終えて
いつもは被告人をやさしく諭す裁判長ですが、今回は被告人に対し厳しい口調で「あなたが独自の見解(勝手な解釈)に凝り固まったままでは良しとしない。」と言いました。


 裁判の向う側 

被告人は、裁判長が判決を言い渡している際、弁護人を睨みつけていました。不服いっぱいなのでしょう。また、判決言い渡しを受けて刑務官に引致されて退廷する際には、世間を見下すような冷笑を浮かべていました。何を考えていたのでしょう。

結局判決では未決勾留期間の120日を差し引いても1年間の懲役です。70代後半の身には辛い刑期を過ごすことになります。この期に及んで世間を見下すような冷笑を浮かべ、弁護人を睨みつけるという被告人の頭の中はどうなのでしょうか。こういうことを主張することでしか、自分の存在を表わすことができないのでしょう。

被告人のような考えの老人は世間にはたくさんいます。特権などあるはずがないのに「高齢者の特権や」と言って周りに迷惑を掛けてはばからない高齢者、周りの他人に助けられていることを自覚できない高齢者など高齢化社会となってどんどん増えてきています。この方達も世間を見下して冷笑しているのでしょう。だとすると今回の被告人と同様の事件を引き起こす可能性大です。

私自身もそうですが、老人になればなるほど自分自身を振り返って、このような勘違いをすることなく、謙虚で慎み深く生きていってほしいものです。

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