今回も、前回に引き続き刑事裁判をメインに「公判前整理手続き」や、「裁判所あるある」を紹介させていただきます。
公判前整理手続き
適用事例
先日傍聴した裁判で、開廷してすぐに裁判長が「本件は公判前整理手続が完了していて、罪状は事前に決定しています。公判廷では量刑判断についてのみ審理を進めます。」と宣言しました。
その事件は80代前半の高齢の女性被告人が、知り合いの女性からいわば「金持ちファンド」に対する出資者を募るように頼まれ、別の知り合いの女性を紹介して1400万円という高額の出資金を投資させたところ、その後知り合いの女性は「金融商品取扱許可」を保有していなかったことが判明し、更に知り合いの女性は集めた出資金を自身の借金の返済に全額使っており、複数の出資者に対して配当どころか元本さえも返済出来ないことが判明しました。実は当該の高齢の女性被告人も1000万円を出資金として投資しており、被告人自身も被害者となっていました。
出資金を募った知り合いの女性は、「詐欺罪」と「出資法違反」で逮捕起訴され、知らなかったこととはいうものの知り合いの女性が「金融商品取扱許可」なしで出資金を集めたことに加担したとして、当該高齢女性も「出資法違反」で逮捕起訴されたものです。
なお、知り合い女性がでっち上げた「金持ちファンド」とは、「金持ちのグループが急なパーティなどを開くための資金を確保するための出資ファンドで、このファンドに資金をプールしておいて、金持ちの皆さんの急な出費に備えるファンドで、出資者には3ヶ月ごとに金持ちグループから高額配当金がリターンされ、元本は金持ちグループが保証するというもの」だったそうです。
では何故この事件の裁判に「公判前整理手続」が適用されたのでしょうか。何故の説明はもちろん傍聴者にはありませんが、以下の4点が想定されます。
①被告人が起訴事実を認めていること。
②高齢の女性被告人と被害者の別の知り合いの女性との間で示談が成立していること。
➂被害金額が高額であり有罪は免れないが、被告人は初犯で反省もしており、かつ再犯の恐れがないことから執行猶予付きの判決が妥当であること。
④被告人が高齢であること。
ということで、本法廷での争点は「刑期」と「執行猶予期間」のみであるため、裁判手続きの充実と迅速化を図るために「公判前整理手続」が適用されたものと想定できます。
公判前整理手続
それでは、「公判前整理手続」とはどのようなものでしょうか。「刑事訴訟法第316条の2以下」の条文と「Wikipedia」の解説を一部参照しながら見ていくことにします。
「公判前整理手続」は、裁判員裁判の導入に伴い、裁判の充実・迅速化を図ることを目的に、2005年に刑事訴訟法の改正で導入されました。つまり素人である「裁判員」が参加する裁判の争点を事前に整理して明確にして「裁判員」に分かり易くするとともに、裁判を迅速化して一般社会人である「裁判員」が裁判のために社会から離脱する時間をできる限り短くすることを目的としているということです。
「公判前整理手続」に「公開・非公開」の規定はありませんが、慣例として「非公開」で行われていることがほとんどだということです。よく言えば当事者が膝突き合わせて「ざっくばらん」にということかも知れませんが、被告人にとっては裁判官の訴訟指揮の権限を必要以上に行使されるのではという不安がつきまとうのではと考えてしまいます。
なお、「裁判員裁判」に付される裁判では、必ず「公判前整理手続」に付すことが義務付けられています。
それでは「刑事訴訟法」の条文を見ていきましょう。
「刑事訴訟法316条の2」
1.裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聞いて、第1回公判期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前整理手続に付することができる。
2.公判前整理手続は、この款に定めるところにより、訴訟関係人を出頭させて陳述させ、又は訴訟関係人に書面を提出させる方法により、行うものとする。
「公判前整理手続」は裁判官・検察官・弁護人が裁判までに証拠を把握できる制度で争点を事前に整理できる制度です。
「刑事訴訟法316条の3」
1.裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるよう、公判前整理手続において、十分な準備が行われるようにするとともに、できる限り早期にこれを終結させるように努めなければならない。
2.訴訟関係人は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるよう、公判前整理手続において、相互に協力するとともに、その実施に関し、裁判所に進んで協力しなければならない。
訴訟関係人が「公判前整理手続」に協力することが義務付けられています。
「刑事訴訟法316条の4」
1.公判前整理手続においては、被告人に弁護人がなければその手続を行うことができない。
2.公判前整理手続において被告人に弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。
基本的に刑事裁判では、被告人が経済的理由から弁護人を付けることが出来なくとも、国選弁護人を付けることは権利であるとされていますが、本条では義務であると規定しています。
以上のように、「公判前整理手続」は裁判の充実と迅速化に寄与しているとされていますが、この手続きが「非公開」であることで被告人を蚊帳の外にした法律論だけの手続きが進められるのではないかという懸念と、本法廷での裁判前に裁判官が証拠を把握することで、裁判官が本法廷に臨む前に予断と偏見で審理を進めないかという危惧があります。
いずれにしても、始まって十数年の制度ですので、もう少し様子を見ることも必要かとも思います。
裁判所あるある
裁判長の訴訟指揮
裁判長も人間ですので、訴訟指揮のやり方は様々です。本来裁判を受ける権利はどの被告人にも平等に与えられていますので、裁判官によって訴訟指揮のやり方が違うというのは
いかがかなとも思うのですが、先程述べたように裁判官も人間ですから仕方ないのでしょうか。
K裁判所の裁判官、被告人にやたら厳しい人がいます。
ある裁判の被告人質問で、弁護人と検察官の被告人質問が終わった後、裁判官が補充質問を行います。
先程検察官に答えた内容と微妙に異なる答えを返すとすかさず、裁判官は
「あなた先程検察官の質問にこのように答えましたよ。何故異なる答えになるのか説明してください。」
次に被告人がまた少し異なる答えを返すと、裁判官は
「なぜそんなに言うことが変わるのか分かりません。説明してください。」
と追及していきます。裁判官に何か意図があるのか分かりませんが、被告人には黙秘権があり、虚偽の答えをしても偽証罪に問われることはないはずです。なんでそこまで追求するのか分かりませんでした。
S裁判所の裁判官、検察官・弁護人が証人訊問や被告人質問をしていると、やたらと介入してきます。
「出来るだけ手短に質問してください。」「その質問は意味がないでしょう。」
検察官・弁護人はこの裁判官の裁判ではとまどってついつい早口になったり、「やれやれ」という顔をしています。だって訴訟指揮には逆らえません。裁判官の心証も大事です。
S裁判所の温情派裁判官は、やたらと丁寧です。
開廷前に被告人に対して
・「私は裁判官のAです。よろしくお願いします。」
証拠調べで検察官から提出された証拠の確認の際に
・「少し時間をください。証拠書類の確認をさせていただきます。」
判決言い渡しを終えて、被告人に対して
・「私はあなたがきっと更生できると信じています。あなたはそれができる人です。」
(・・・それが出来ていれば何度も再犯しないと思いますけれども。)
あいだみつお風に
「さいばんかんも にんげんだもの」
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