2019年8月16日金曜日

高齢女性が知らずに出資法違反で有罪「公判前整理手続き」【裁判傍聴記】

被告人は、「金融商品取扱許可」を保有していない知り合いの女性から出資者を募るよう頼まれ、別の知り合い女性を紹介して多額の資金を出資させたとして「出資法違反」で逮捕されました。出資した女性の元には、現在も出資元本すら返金されていません。
今回の裁判は「公判前整理手続き」という聞き慣れない手続きで進められていました。

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罪 状 出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締に関する法律)違反
被告人 80代前半女性
求 刑 本日以降の法廷で求刑されます。

 事件の概要 


被告人は、平成28年3月から12月の間に6回に渡って、喫茶店X他において、知り合いの主犯の女Aから頼まれて募った被害女性Bから元本総額1,400万円を出資の預り金として受理したもので、主犯の女Aの「ほう助」としての役割を果たしました。この後出資の元本が被害女性Bの手元に戻ることはありませんでした。

主犯の女Aは「金融商品取扱許可」を保有していなかったため、被告人は「出資法違反(ほう助)」で起訴されたというものです。

この犯罪の手口は以下のとおりです。

主犯の女Aは、金融商品を取り扱う際に必要となる内閣総理大臣の許可を保有していないに関わらず、自分の周囲の知り合いの女性に対し次のように話をします。
・・・「知り合いの大金持ちの奥さんから、急なパーティーをする時など急に大きな出費が必要な時があるので、このときに必要となる資金をプールしておきたいと言われている。ついては出資者を募って資金をプールしておいてほしい。」と頼まれている。更に当然のごとく「出資してくれた人には、4ヶ月に1回高い利回りで配当を支払うとも言われている。」・・・今はやりの「クラウドファウンディング」と似ているような・・・。という「うその話」を持ち掛けて出資を募ります。

主犯の女Aは、これで出資してくれた人には4か月後に一旦高い配当を支払います。これで出資した人に対しては、更に出資してくれる知り合いを紹介してほしいと頼みます。

この方法で順次ネズミ講のようにして、出資者を募り主犯の女Aは莫大な金を手中にしました。

被告人は同様の手口で出資を勧められ1,000万円を主犯の女Aに預けています。そして出資者を紹介してくれれば10%の紹介料を支払うと言われ、10名の出資者を紹介していますが、未だ紹介料は受け取っていません。

今回の事件で主犯の女Aは、被告人から紹介された被害者Bをターゲットにして、平成28年3月から12月の間に6回に渡って、喫茶店X他において被告人と同席し、被害女性Bに出資を勧め、配当金も間違いなく支払われるからと言いくるめて、元本総額1,400万円を出資の預り金として受け取ったものです。このとき、主犯の女Aは、被害者Bに対し都度「借用証書」を交付しています。

主犯の女Aは、被害者Bの他にも医者など不特定多数に対して、「金銭借用証書」を交付して、同様のうその手口で出資させ、自身の借金の返済のために金を預かり回していたものです。

被告人は、県内の中学校を卒業後、紡績工場に38年間努めていましたが、退職して現在は無職です。退職後地域の民生委員を勤めたり、自治会の区長を任されたりと地域の中では名士として名前が知れていました。
被告人は、結婚して子供もおり、現在は長男夫婦と二世帯住宅で暮しています。

被害者Bは市の社会福祉協議会の食堂の厨房で働いていましたが、被告人が地域の区長として社会福祉協議会に出入りしていた10年前頃に知り合い、その後食事に誘われたり、一緒に旅行に行ったりという仲でした。

主犯の女Aは、被告人が地域の名士ということで言葉巧みに近づいて、出資させるとともに、地域の名士の顔を使って出資者を募らせようとしたのでしょう。被告人はこの策略にまんまとはまって知り合い女性の被害者Bさんを主犯の女Aに紹介するだけでなく、一緒になって出資を勧めたということで「共犯」として起訴されたのです。「主犯の女Aが「金融商品取扱」資格を持っていないということを知りませんでした。」では済まないということです。

最近は特殊詐欺に注意しましょうということで、いわゆる「アポイント詐欺」に注意がいっています。ところがどっこい、頭のいい奴は「お年寄り」をころりとだますあの手・この手を次々に繰り出してくるということをしっかり理解して、「うまい話には近づかない」ように心しましょう。

 公判前整理手続き 


「公判前整理手続き」は裁判員制度導入に合わせて設けられた制度で、刑事裁判の充実と迅速化を図るための制度です。裁判員裁判では全てこの制度が適用され、裁判官・検察官・弁護人が初公判前に協議して、証拠や争点を絞り込んで裁判計画をたてるというものです。公開・非公開の規定はありませんが、慣例として大半が非公開です。

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今回の事件も、「公判前整理手続き」が適用され、事前に非公開で裁判官・検察官・弁護人が協議して方向性を決定しています。

今回の裁判では、裁判長が「本件は公判前整理手続きが完了していて、罪状は事前に決定しています。公判廷では量刑判断について審理を進めます。」と宣言しました。

その他の手続きは、ほぼ通常通り進められましたが、裁判長も検察官も弁護人も起訴状や証拠資料を確認していますので、迅速に手続きが進んでいきました。

 起訴状朗読 


検察官が通常手続きと同様に、起訴状を朗読します。

 罪状認否 


被告人:認めます。

弁護人:被告人と同意見です。

 冒頭陳述 


検察官が、事件の概要に記載の内容について陳述し、裁判長はこれについて弁護人の意見を求めます。

 弁護人意見陳述 


公訴事実は争いません。

被告人は、主犯の女Aの「4か月に1回元本を増やして返してくれる」の言葉を信じて被害者からお金を預かったもので、「共謀」ではない。

被告人は主犯の女Aが「金融商品取扱許可」を保有していなかったことも、そんな資格が必要だということも知らなかった。被害者Bに「良い話なので紹介してあげたい」という思いだけだったということです。

主犯の女Aとの間に入り紹介行為をした人は、被告人の他にも多数存在する。

 証拠調べ 


検察官が申請していた証拠について、証拠調べが行われます。

●主犯の女Aが「金融商品取扱許可」を保有していないこと。
●平成28年6月から12月の間に主犯の女Aが被害者Bに交付した1,400万円分の「借用証書」
●平成29年3月以降に被害者Bから主犯の女Aに対してお金の返還を求めた携帯電話のSMSの記録
●主犯の女Aが不特定多数に交付していた「金銭借用証書」
●主犯の女Aの刑事裁判の判決

 証人訊問 


検察側証人として、被害者Bが出廷しました。

●平成28年3月から12月の間に主犯の女Aに金を預けたが帰ってきません。
●きっかけは、被告人に喫茶店に誘われ、主犯の女Aを紹介されたことです。
●被告人とは、自分が社会福祉協議会の食堂の厨房で働いていた頃、被告人が地域の区長として社会福祉協議会に出入りしていたのをきっかけに知り合いました。その後食事に誘われたり、旅行に一緒に行ったりしました。10年前からの知り合いです。

その後は私が別の法廷の傍聴に行きましたので、続きは聞けていません。

この後は「被告人質問」「論告求刑」「弁護人最終弁論」「被告人最終陳述」と進み、「次回法廷期日の決定」をしてこの日の審理は終了したのでしょう。

 裁判の向う側 


被告人は「民生委員」や地域の「区長」を任されるなど人望もあり、力量もあり、周りの全ての人達から良い人だと言われてきたのでしょう。たしかにそうであったかも知れませんが、そういう人こそ狙われるんでしょう。そういう人であったからこそ近づいてきた主犯の女Aのことを疑わなかったんでしょう。

本当に悪い奴らはとんでもない手口で高齢者を狙っています。

他人をいつも疑ってかかるというのも、あまり気持ちのよいものではありませんが、被害に遭わないためにも、ここは「甘い話には罠がある」と思って近づかないようにしましょう。だいたい「大金持の奥さんのパーティー費用をプールするために出資を募る」なんていう話があるわけがないですし、あったとしても怪しい話です。なんでこんな話にひっかかるのか不思議でなりません。

被告人は、判決がどうなるか分かりませんが、罪状が既に決定していますので、実刑にはならずとも有罪判決は確定しています。被告人に執行猶予がついたとしても、狭い村社会のなかでは、たとえ知らなかったこととは言え、あっという間に噂は広まり肩身の狭い思いをして生活していかなければならないでしょう。

また、民事上の責任を負うことにもなるでしょう。自身が主犯の女に預けた1,000万円も返ってこないうえに、被害者Bに対する賠償責任も生じてくるでしょう。1,400万円全額ではなくても何割かの負担を請求されるでしょう。

せっかく築き上げたこれまでの地位や財産も崩れていくでしょうが、残りの余生は平坦であることを祈ります。

お互い気をつけましょう。

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