罪 状:
特定商取引法違反※注1、詐欺、詐欺未遂、組織的犯罪処罰法違反※注2
被告人:
(A) 60代後半男性
(B) 50台後半男性
(C) 40代後半男性
(D) 30代前半男性
判 決:
(A) 懲役5年、未決勾留日数20日を刑期に算入
(B) 懲役3年6月
(C) 懲役3年、執行猶予5年
(D) 懲役2年6月、執行猶予4年
※注1:特定商取引法は、会社などの事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。具体的には、訪問販売や通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールとクーリングオフ等の消費者を守るルール等を定めています。
※注2:組織的犯罪処罰法は、暴力団・テロ組織などの反社会的団体や、会社・政治団体・宗教団体などに偽装した団体による組織的な犯罪に対する刑罰の加重と犯罪収益の資金洗浄(マネーロンダリング)行為の処罰、犯罪収益の没収・追徴などについて定めています。
事件の概要
今回は、「判決」のみの傍聴で「起訴状朗読」や「冒頭陳述」、「証拠調べ」、「被告人質問」、「論告求刑」、「弁護人最終弁論」などの審理手続きを傍聴していませんので、詳細な部分は明確ではありませんが、判決での起訴事実の確認と量刑の説明から、事件の概要とストーリーは次のようであったと想定できます。
広島市内に会社を構え社長を務める被告人Aは、専務のB、社員のC、Dに指示して、全国で通信教育受講歴のある中高年者のリストを入手し、この中から途中で受講を断念している人達に狙いをつけました。(おそらく名簿売買業者から通信教育の会社の受講者名簿を入手したものと思われます。)
まず社員C、Dが、入手した名簿から通信教育を途中で断念している人(被害者)に電話をかけて、「通信教育が解約になっていません。解約するのであれば解約料が発生していますのでお支払いください。解約料は○○〇万円です。」と電話をします。解約料は莫大な金額を告げたのでしょう。電話を受けた被害者は通信教育を受けていたことさえ忘れているような過去のことで戸惑います。恐らく「延滞利息が発生しています。」とも告げて被害者に追い打ちをかけ、被害者とその後いくつかのやりとりをした後、「上の者と相談します。」と言って一旦電話を切ったのでしょう。
その後、あくる日か2日後か3日後でしょう。被告人AかBが会社の社長か専務を名乗って被害者に電話をして、「今回に限り教材費の実費を支払ってもらえれば解約料を免除にすることとします。」と言った後、社員CかDに電話を代わったのでしょう。社員CかDは教材費の振込先口座を被害者に伝え、早急に振り込むよう督促します。
被害者は、莫大な違約金の支払いを免除されたといことを鵜呑みにして、教材費を指定口座に振り込みました。教材費は、ほぼ一人50万円超程度でした。(結構な金額です。)
目ぼしを付けた被害者に電話をかけた際の会社の屋号は、いくつか使い分けていたようです。屋号の内の一つは「教育事業株式会社」です。
電話をかける際の「トークマニュアル」については被告人Aが作成しており、被告人B、C、Dはこのマニュアルに従って電話をかけていました。
被告人A、B、C、Dは同様の手口で、平成30年1月から1年6か月に亘って49回もの犯行を繰り返し、約25百万円を荒稼ぎしました。これは被害届が出され、起訴された事件だけだと思われます。余罪を含めると被害はもっと拡大するものと思います。
判決言い渡しの際に、裁判長は起訴事実を読み上げました。裁判長は検察の起訴日付順に読み上げましたが、以下では時系列順に列挙します。
①平成29年7月
被害者は静岡県在住40歳男性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い54万円
②平成29年7月
被害者は滋賀県在住55歳男性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い54万円
③平成29年7月
被害者は石川県在住65歳他5名男性
通信教育解約料の代わりに教材費支払い計277万5600円
④平成30年1月
被害者は三重県在住59歳男性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い55万円
⑤平成30年6月
被害者は石川県在住45歳男性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い64万8千円
⑥平成30年6月
被害者は京都市在住44歳男性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い54万円を要求されましたが警察に相談して未遂に終わりました。
⑦平成30年7月
被害者は滋賀県在住62歳女性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い51万4千円
⑧平成30年7月
被害者は福井県在住50歳男性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い51万4千円
⑨平成30年8月
被害者は京都府在住62歳男性他12名
通信教育解約料の代わりに教材費支払い計599万6200円
⑩平成30年8月
被害者は神奈川県在住44歳男性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い54万円
⑪平成30年8月
被害者は岡山県在住45歳男性他2名
通信教育解約料の代わりに教材費支払い計108万円
⑫平成30年10月
被害者は岡山県在住63歳男性他9名
通信教育解約料の代わりに教材費支払い計462万6千円
⑬平成30年10月
被害者は愛知県在住42歳男性他2名
通信教育解約料の代わりに教材費支払い計102万8千円
⑭平成30年10月
被害者は京都府在住58歳男性他2名
通信教育解約料の代わりに教材費支払い計102万8千円
⑮平成30年10月
被害者は愛知県在住53歳男性他6名
通信教育解約料の代わりに教材費支払い計308万4千円
⑯平成30年10月
被害者は三重県在住64歳男性他2名
通信教育解約料の代わりに教材費支払い計102万8千円
⑰平成30年10月
被害者は石川県在住60歳男性 通信教育解約料の代わりに教材費支払い51万4千円
被害者は、地方の県に在住の中高年ばかりですので、地方で生活している中高年者は警戒心の薄いであろう方達だと想定して狙ったものと思います。
判 決
判決言い渡しは1時間に及びました。(通常は5分か10分程度です。)
主 文
被告人A:懲役5年、未決勾留日数20日を刑期に算入
被告人B:懲役3年6月
被告人C:懲役3年、執行猶予5年
被告人D:懲役2年6月、執行猶予4年
主文の後、事件の概要で記載した起訴事実を17件読み上げました。
量刑の説明
被告人Aは、全ての犯行に関与しており、被害者を惑わす「トークマニュアル」も作成して主謀者として重要な役割を果たしている。
1600万円を被害弁済した。
被告人Aには前科・前歴はなく、妻がいる。
被告人Bは、専務取締役として経理を担当し「トークマニュアル」の作成にも協力した。
被害者から騙し取った教材費の入金口座の管理を行っていた。
500万円を被害弁済した。
被告人Aには前科・前歴はなく、婚約者がいる。
被告人Cは、従業員として役割を果たしたものであり、執行猶予を付した。
被告人Aには前科・前歴はなく、妻がいる。
被告人Cは、従業員として役割を果たしたものであり、執行猶予を付した。
被告人Aには前科・前歴はない。
判決言い渡しの後、被告人Aは被告人B、C、Dと握手を交わし、傍聴席にいた妻と思しき女性と法廷の柵越しにハグしていました。同じく被告人Bも被告人C、Dと握手を交わしていました。まるで戦友気分です。この人達はこの期に及んでも、自らの犯した罪、被害者の苦しみを理解していないなと感じました。
裁判の向う側
最近特殊詐欺が大流行して、多くの高齢者が被害にあっていますが、本件は特殊詐欺の隙間をぬった手の込んだ詐欺事件です。
働きざかりで、向上心のある人は一度は通信教育を受けてみようと思い、高い受講料を払って教育を受けた経験があるのではないでしょうか。でも多くの人が途中で挫折して中断してしまいます。私も経験があります。挫折して教材だけが残りこの教材で独学してみようと思いますが、それも挫折します。で、10年20年すると通信教育を受けたことすら記憶の片隅です。
そこへ目を付けたのが、今回の犯行です。「トークマニュアル」を作ったり、複数の人間で電話したりと手の込んだ手口です。被害者が騙されるのも無理ありません。
頭の良い悪いやつは、我々の心の隙間を狙っているということが如実に分かる事件でした。
心の隙間に気を付けましょう。
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