2019年5月20日月曜日

【裁判傍聴記】盗んだ金は父親の葬儀費用に充てました

被告人は、■市内の社会福祉法人ABC共同作業所(障害を持人の就業施設)が、終業後で人がいないことを確認したうえで、忍び込み現金を盗み出しました。事件後警察の捜査で被告人が割り出され逮捕されたものです。被告人は盗みで得たお金を父親の葬儀費用の支払いと、同居する要介護の母親との生活費を確保するために使いました。



罪 状 窃盗
被告人 60代後半 男性
求 刑 懲役3年6月


 事件の概要 

平成30年〇月×日夜、被告人は■市内の社会福祉法人ABC共同作業所(障害を持人の就業施設)が終業後で人がいないことを確認したうえで、忍び込み現金を盗み出しました。
事件後警察の捜査で被告人が割り出され逮捕されたものです。

被告人は、結婚して子供を2人もうけましたが、20数年前に離婚して、現在は独身で要介護の母親と2人で暮しています。
 
7年前に父親が亡くなってその葬儀費用の支払いに現金が必要となりました。同時に父親が介護をしていた母親の介護を自分が行うことが必要となったため、勤めていた会社を退職した。このため葬儀費用の支払いや日々の生活費を確保するため、侵入盗を始めました。母親の介護を始めてからも侵入盗を続けていました。
 
侵入盗で狙う先は、インターネットで検索した共同作業所で、月に1~2か月に1回のペースで犯行を行い、この7年間で約50回の犯行で、約250万円以上の金員を窃取していました。

被告人は共同作業所へは夜間、人のいない時間帯を狙って、準備したドライバーやガストーチを使って侵入し、犯行を続けていました。
 
(共同作業所)
様々な困難を持つ障害者が日中集い、活動する通所施設です。共同作業所は特別支援学級を卒業後に進路先や働く場所を確保できない障害者を受け入れる施設で、働いた対価として工賃が支給されていますが、多くの場合低額です。 

  
 弁護側提出証拠   

弁護人提出の証拠は以下のとおりです。
1.ABC共同作業所に対する弁済報告 10.000円 
2.被告人の反省文
3.被告人作成の被害者である共同作業所への謝罪文


 被告人質問    
  
弁護人
侵入盗を行った理由は何ですか。
被告人
父親の葬儀費用の支払いと、同居する要介護の母親との生活費を確保するためです。
 
弁護人
被害者に対しどういう気持ちですか。
被告人
身勝手な考えで多くに方に迷惑を掛けしました。申し訳なく思っています。

弁護人
被害金の弁済はどのように行っていくつもりですか。
被告人
父親からの土地他の相続財産を売却して弁済するつもりです。現在売却手続き中です。

弁護人
これまでの生活費はどのようにしていましたか。
被告人
7年前からの侵入盗から得たお金と、パチンコ店の夜の清掃の仕事で月5万円ほど得ていました。

弁護人
何故窃盗しない他の手段、誰かに相談いるとか、例えば生活保護を受給するなどの手段に向かわなかったのですか。
被告人
心が弱く安易な方へ向いてしまいました。


 論告求刑    
 
検察官
犯行には常習性があり悪質です。
求刑 懲役3年6月


 弁護人最終弁論  

弁護人
被告人は反省しており、被害弁済も計画的に行うことを誓っています。
執行猶予付き判決を希望します。


 被告人最終陳述 

被告人
申し訳ありません。


 裁判の向う側 

本件は社会的に弱い立場の人たちを狙う、極めて卑劣な犯行です。理由はどうであれ、障碍者の方がやっとの思いで稼いだお金を盗むということが、どれだけ人の道を外した行いであるのかしっかりと認識して反省してほしい。

本件に酌むべき理由は無いとは思いますが、本件の背景として、高齢の親の介護を高年者が行わざるを得ないという現実がありました。
これを解決するために窃盗と至ったというのは、短絡的で身勝手な行動ですが、超高齢化した日本の社会のなかでは、このような問題が数多く発生していることは想像に難くありません。

このような問題に自身が直面することを想定して、誰もがそなえておく必要があることを考えさせられる事件でもありました。

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