隣々接県に居住する被告人は他の同国人仲間3人と共謀して車上荒らしを計画し、A市の近郊の住宅街のあるB駅まで電車で移動しました。住宅地に到着後周辺を物色し、被害者宅に到着した4人は、被告人を見張り役に立てて車が無施錠であることを確認し、現金50,000円と腕時計2個6万円相当を盗み出し、すぐさま逃走しました。被害金額は、合計110,000円です。
被告人はアジア系外国人で、8年前に両親と妹の家族3人とともに来日し、家族5人で同居しています。
今回の事件は被告人がアジア系外国人ということと、証人として同じアジア系外国人の被告人の母親が証言するということで、法廷通訳が配置されました。
なお、被告人が有罪判決となって訴訟費用を負担することとなった場合は、通訳の旅費日当と証人の旅費日当、国選弁護人の旅費日当と報酬は、被告人が負担することとなります。
傍聴席には、被告人の同国の家族全員が入ってきました。両親と妹2人の4名です。一番下の子は4才から5才くらいでしょうか。
事件の概要
平成30年〇月×日夜11時頃、愛知県に住む被告人は他の同国人仲間3人と共謀して車上荒らしを計画し、滋賀県A市の近郊の住宅街のあるB駅まで電車で移動しました。B駅で降り立った4人は、夜のとばりの降りた住宅街で無施錠の車を物色して歩きました。
しばらくして被害者宅に到着した4人は、被告人を見張り役に立てて車が無施錠であることを確認し、車のドアを開けて、給料袋に入っていた現金50,000円と腕時計2個6万円相当を盗み出し、すぐさま逃走しました。
被害金額は、合計110,000円です。
盗んだ現金は、被害者宅から逃走した先で4人ですぐに分配しました。
被害者に対する被害弁済はされていません。
被告人はアジア系外国人で、8年前に両親と妹の家族3人とともに来日し、来日後に生まれた妹を加え家族5人で愛知県内の郊外の都市に同居しています。
被告人は現在無職です。また被告人に前科はありませんが、同種前歴2件があります。
同種前歴2件は少年事件です。
弁護側情状証人尋問
被告人の母親が情状証人として出廷しました。
母親は傍聴席で、被告人が手錠と腰縄でつながれて法廷に入ってくる姿を見たとたんに泣き出していました。
弁護人
被告人はどのような人柄ですか。
証 人
やさしく、親を助けてくれる子供です。
弁護人
被告人が盗みをしていたことを知っていましたか。
証 人
知りませんでした。ごめんなさい。
弁護人
何故盗みをしたと思いますか。
証 人
お金がなかったからだと思います。
弁護人
被告人が出所したらどのように監督しますか。具体的にお願いします。
証 人
悪い仲間と付き合わないよう、悪いことをしないよう話をして監督します。仕事を見つけ家を出ないように監督します。
弁護人
2017年と2018年の窃盗事件の裁判の時にも、お母さんが証人として出廷して、監督すると約束したのではないですか。この時と何が違うのか具体的に説明してください。
証 人
絶えず話しかけていきます。
弁護人
今回、仲間とはスマートフォンのSNSで連絡を取り合っていましたが、SNSを監視できますか。
証 人
SNSは消します。
弁護人
今回も刑も決定していませんが、もし次回犯罪を犯した場合は、間違いなく実刑になることを分かっていますか。(実刑になると懲役になり、出所後には強制退去になります。)
証 人
分かっています。
弁護人
最後に、出所後は間違いなく被告人を監督することを約束してくれますか。
証 人
約束します。よく話をしてアドバイスしていきます。
検察官
金欲しさで盗みをはたらいたことを聞いてどう思いましたか。
証 人
傷つきました。私たち家族が望んだものではありません。
検察官
友達を知っていますか。
証 人
SNSで見た程度です。
検察官
友達とはどのように付き合ってもらいたいですか。
証 人
悪い友達とは付き合わないよう、厳しく言っていきます。
裁判長
被告人が仕事をしていなかったことや、夜出歩いていたことをどう思っていましたか。
証 人
不安な気持ちでしたので、出来るだけ電話をしていました。
被告人質問
弁護人
今回の事件の動機は何ですか。
被告人
金が必要でした。それとスリルを求めました。
弁護人
被告人の役割と、誰が車から給料袋を盗んだ?
被告人
私の役割は見張りです。別の1人が盗みました。
弁護人
別の1人は盗んだ給料袋をどうした?
被告人
私に渡されたので、入っていた現金50,000円を4人で分けました。
私と盗んだものが15,000円ずつ、残りを4名に5,000円ずつ分けました。
弁護人
盗みが何故悪いのか、説明してください。
被告人
(長々と話しましたので、途中で弁護人が止めました。)
・社会の人に迷惑を掛けます。・もしそこに刃物があれば相手を傷つけるかも知れません。などなど
弁護人
このことは勾留中に考えたのか?
被告人
毎日毎日考えました。
弁護人
今後盗みをしないたにはどうすればよいですか。
被告人
仕事をします。そして自分自身をきちんとして日本語を勉強します。
弁護人
日本語を勉強するのは何故。
被告人
仕事を理解するために勉強します。
弁護人
仲間と縁を切ることは可能か、仲間は近くに住んでいるのか。
被告人
フェースブックのページを切ります。アプリも消します。仲間は遠くにいます。スマートフォンさえ管理すれば縁を切れます。
弁護人
次に再犯すれば実刑になることは理解しているか?
被告人
理解しています。
弁護人
絶対に犯罪に手を染めないと誓えるか。
被告人
誓います。
弁護人
少年事件の時の審判でも誓っているが、何が違うのか。
被告人
今回は最後のチャンスです。次はビザがなくなる可能性があります。母国には家族はいません。
弁護人
被害者に対する弁済はどうするつもり?
被告人
返さなければならないと考えています。働くようになって返済します。
検察官
2018年の窃盗事件で逮捕されたが、役割は、車から盗んだのは誰か?
被告人
私は見張りでした。盗んだのは別の仲間です。
窃盗をしたのは、自分の問題です。
検察官
仲間との関係をやめなかったのは何故か?
被告人
私はいやだと言ったが、断ち切れなかった。
今後は仲間と縁を切ると誓います。仲間を無視します。
裁判長
車上荒らしはいつからやっている?
被告人
2018年1月から今回の事件まで4~5回やったが、車のドアに鍵がかかっていて失敗しました。お金を盗ったのは今回が初めてです。
裁判長
今回の仲間は元々友達か?
被告人
最初はクラブで知り合い、次第に盗みについて話をしました。当時は何も考えていませんでした。
論告求刑
犯行は手慣れており悪質である。本人が反省していることを考慮しても、責任は重大。
懲役1年6月
弁護人最終弁論
1.起訴事実は争いません。
2.以下の情状を考慮してほしい。
①被告人の役割は見張りで犯罪を主導していません。
②母親が指導監督を約束しています。
3.被告人に前科はありません。
4.就労意欲もあり、再犯の可能性はありません。
5.本人は反省しており、仲間とも縁を切ると言っています。
今回に限り、執行猶予付きの判決をお願いします。
被告人最終陳述
被害者の方や周囲の方に対し申し訳なく、後悔し反省しています。
両親に対しても反省しています。
もう二度と悪いことはしません。
判 決
犯行は手慣れた対応で悪質で、自身は見張り役であるに関わらず分け前を自身に有利に配分しており、また昔の仲間と交友を再開して問題意識が薄い。
しかし自身反省し、今後は仕事に専任することを約しており、前科前歴がないことも考慮して、今回に限り執行猶予付きの判決とした。
裁判の向う側
被告人は来日して8年たちますが、日本語はあまり喋れないようでした。傍聴席にいた妹は来日してから日本の小中学校で日本語を勉強したからか、日本語の読み書きが出来るようでした。また両親はともに日本語はできないようでした。
アジアの国々の人たちは安定した生活や、治安の護られた生活を求めて日本に来るようですが、日本語もままならないまま、文化も習慣も異なるなかで生活するのはたやすいことではありません。たとえ就労ビザを取得しても働ける仕事は限られています。
今回の事件では被告人は金欲しさに犯行に及んだと言っています。働きたくても働ける場は多くはありません。傍聴に来ていた被告人の家族を見ていても、満足な生活ができているとは言えないような雰囲気です。だから車上荒らしをしたといって正当化できるわけでは決してありませんが、日本に来ている在留外国人の多くが同じような境遇にあるだろうということは推して知るべしだと思います。
昨年末国会で改正入管法が可決・成立しました。国内の人手不足を解消するために、外国人の単純労働者を大幅に受け入れようというものです。今は経済が上向いているので人手不足となっていますが、いつ経済が下向くか分かりません。その時には大幅に受け入れた外国人の仕事も不足することは目に見えています。
そうなった時には、今回の事件のようなことが起こらざるを得ないのではないか、そのように考えてしまいます。政府や経済界はそのことをしっかりと考えて今後の雇用政策を考えてほしいと思います。
求 刑 懲役1年6月
なお、被告人が有罪判決となって訴訟費用を負担することとなった場合は、通訳の旅費日当と証人の旅費日当、国選弁護人の旅費日当と報酬は、被告人が負担することとなります。
傍聴席には、被告人の同国の家族全員が入ってきました。両親と妹2人の4名です。一番下の子は4才から5才くらいでしょうか。
事件の概要
平成30年〇月×日夜11時頃、愛知県に住む被告人は他の同国人仲間3人と共謀して車上荒らしを計画し、滋賀県A市の近郊の住宅街のあるB駅まで電車で移動しました。B駅で降り立った4人は、夜のとばりの降りた住宅街で無施錠の車を物色して歩きました。
しばらくして被害者宅に到着した4人は、被告人を見張り役に立てて車が無施錠であることを確認し、車のドアを開けて、給料袋に入っていた現金50,000円と腕時計2個6万円相当を盗み出し、すぐさま逃走しました。
被害金額は、合計110,000円です。
盗んだ現金は、被害者宅から逃走した先で4人ですぐに分配しました。
被害者に対する被害弁済はされていません。
被告人はアジア系外国人で、8年前に両親と妹の家族3人とともに来日し、来日後に生まれた妹を加え家族5人で愛知県内の郊外の都市に同居しています。
被告人は現在無職です。また被告人に前科はありませんが、同種前歴2件があります。
同種前歴2件は少年事件です。
弁護側情状証人尋問
被告人の母親が情状証人として出廷しました。
母親は傍聴席で、被告人が手錠と腰縄でつながれて法廷に入ってくる姿を見たとたんに泣き出していました。
弁護人
被告人はどのような人柄ですか。
証 人
やさしく、親を助けてくれる子供です。
弁護人
被告人が盗みをしていたことを知っていましたか。
証 人
知りませんでした。ごめんなさい。
弁護人
何故盗みをしたと思いますか。
証 人
お金がなかったからだと思います。
弁護人
被告人が出所したらどのように監督しますか。具体的にお願いします。
証 人
悪い仲間と付き合わないよう、悪いことをしないよう話をして監督します。仕事を見つけ家を出ないように監督します。
弁護人
2017年と2018年の窃盗事件の裁判の時にも、お母さんが証人として出廷して、監督すると約束したのではないですか。この時と何が違うのか具体的に説明してください。
証 人
絶えず話しかけていきます。
弁護人
今回、仲間とはスマートフォンのSNSで連絡を取り合っていましたが、SNSを監視できますか。
証 人
SNSは消します。
弁護人
今回も刑も決定していませんが、もし次回犯罪を犯した場合は、間違いなく実刑になることを分かっていますか。(実刑になると懲役になり、出所後には強制退去になります。)
証 人
分かっています。
弁護人
最後に、出所後は間違いなく被告人を監督することを約束してくれますか。
証 人
約束します。よく話をしてアドバイスしていきます。
検察官
金欲しさで盗みをはたらいたことを聞いてどう思いましたか。
証 人
傷つきました。私たち家族が望んだものではありません。
検察官
友達を知っていますか。
証 人
SNSで見た程度です。
検察官
友達とはどのように付き合ってもらいたいですか。
証 人
悪い友達とは付き合わないよう、厳しく言っていきます。
裁判長
被告人が仕事をしていなかったことや、夜出歩いていたことをどう思っていましたか。
証 人
不安な気持ちでしたので、出来るだけ電話をしていました。
被告人質問
弁護人
今回の事件の動機は何ですか。
被告人
金が必要でした。それとスリルを求めました。
弁護人
被告人の役割と、誰が車から給料袋を盗んだ?
被告人
私の役割は見張りです。別の1人が盗みました。
弁護人
別の1人は盗んだ給料袋をどうした?
被告人
私に渡されたので、入っていた現金50,000円を4人で分けました。
私と盗んだものが15,000円ずつ、残りを4名に5,000円ずつ分けました。
弁護人
盗みが何故悪いのか、説明してください。
被告人
(長々と話しましたので、途中で弁護人が止めました。)
・社会の人に迷惑を掛けます。・もしそこに刃物があれば相手を傷つけるかも知れません。などなど
弁護人
このことは勾留中に考えたのか?
被告人
毎日毎日考えました。
弁護人
今後盗みをしないたにはどうすればよいですか。
被告人
仕事をします。そして自分自身をきちんとして日本語を勉強します。
弁護人
日本語を勉強するのは何故。
被告人
仕事を理解するために勉強します。
弁護人
仲間と縁を切ることは可能か、仲間は近くに住んでいるのか。
被告人
フェースブックのページを切ります。アプリも消します。仲間は遠くにいます。スマートフォンさえ管理すれば縁を切れます。
弁護人
次に再犯すれば実刑になることは理解しているか?
被告人
理解しています。
弁護人
絶対に犯罪に手を染めないと誓えるか。
被告人
誓います。
弁護人
少年事件の時の審判でも誓っているが、何が違うのか。
被告人
今回は最後のチャンスです。次はビザがなくなる可能性があります。母国には家族はいません。
弁護人
被害者に対する弁済はどうするつもり?
被告人
返さなければならないと考えています。働くようになって返済します。
検察官
2018年の窃盗事件で逮捕されたが、役割は、車から盗んだのは誰か?
被告人
私は見張りでした。盗んだのは別の仲間です。
窃盗をしたのは、自分の問題です。
検察官
仲間との関係をやめなかったのは何故か?
被告人
私はいやだと言ったが、断ち切れなかった。
今後は仲間と縁を切ると誓います。仲間を無視します。
裁判長
車上荒らしはいつからやっている?
被告人
2018年1月から今回の事件まで4~5回やったが、車のドアに鍵がかかっていて失敗しました。お金を盗ったのは今回が初めてです。
裁判長
今回の仲間は元々友達か?
被告人
最初はクラブで知り合い、次第に盗みについて話をしました。当時は何も考えていませんでした。
論告求刑
犯行は手慣れており悪質である。本人が反省していることを考慮しても、責任は重大。
懲役1年6月
弁護人最終弁論
1.起訴事実は争いません。
2.以下の情状を考慮してほしい。
①被告人の役割は見張りで犯罪を主導していません。
②母親が指導監督を約束しています。
3.被告人に前科はありません。
4.就労意欲もあり、再犯の可能性はありません。
5.本人は反省しており、仲間とも縁を切ると言っています。
今回に限り、執行猶予付きの判決をお願いします。
被告人最終陳述
被害者の方や周囲の方に対し申し訳なく、後悔し反省しています。
両親に対しても反省しています。
もう二度と悪いことはしません。
判 決
主 文
懲役1年6月 執行猶予3年
訴訟費用は被告人に負担させない。
理 由
しかし自身反省し、今後は仕事に専任することを約しており、前科前歴がないことも考慮して、今回に限り執行猶予付きの判決とした。
裁判の向う側
被告人は来日して8年たちますが、日本語はあまり喋れないようでした。傍聴席にいた妹は来日してから日本の小中学校で日本語を勉強したからか、日本語の読み書きが出来るようでした。また両親はともに日本語はできないようでした。
アジアの国々の人たちは安定した生活や、治安の護られた生活を求めて日本に来るようですが、日本語もままならないまま、文化も習慣も異なるなかで生活するのはたやすいことではありません。たとえ就労ビザを取得しても働ける仕事は限られています。
今回の事件では被告人は金欲しさに犯行に及んだと言っています。働きたくても働ける場は多くはありません。傍聴に来ていた被告人の家族を見ていても、満足な生活ができているとは言えないような雰囲気です。だから車上荒らしをしたといって正当化できるわけでは決してありませんが、日本に来ている在留外国人の多くが同じような境遇にあるだろうということは推して知るべしだと思います。
昨年末国会で改正入管法が可決・成立しました。国内の人手不足を解消するために、外国人の単純労働者を大幅に受け入れようというものです。今は経済が上向いているので人手不足となっていますが、いつ経済が下向くか分かりません。その時には大幅に受け入れた外国人の仕事も不足することは目に見えています。
そうなった時には、今回の事件のようなことが起こらざるを得ないのではないか、そのように考えてしまいます。政府や経済界はそのことをしっかりと考えて今後の雇用政策を考えてほしいと思います。
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