2019年5月20日月曜日

裁判傍聴のすすめ その1「裁判傍聴ガイド」「刑事裁判の法廷手続」

裁判所は、私たちが普段の生活では、足を踏み入れたくない場所のトップ3に入る存在ではないでしょうか。



吉本新喜劇などで笑いの一部になる「訴えてやる」は裁判所に訴え出ることを言っていますし、「出るとこ出ましょうか」というのは、裁判で決着をつけることを暗に言っており、相手に対する挑発的な意味合いもあり、親愛の情で言う場合はないように思います。ことほど左様にあまり私たちは裁判所に対して、あまり良い印象を持っていません。
 
私も裁判というのは、それぞれの事件に対して法律を画一的に適用した判断を下すという、人間味のない無機質なものだというふうに思っていました。

ところが、私は裁判所で裁判を傍聴するなかで民事裁判であれ、刑事裁判であれ、現実世界の出来事を扱う裁判の法廷は、「法律を適用して判断」だけという無機質なものではないと感じています。ドラマチックで時にはユーモアもあり(厳粛な法廷でなんでユーモアと思われる方もいるかも知れませんが)、悲しい話もあり、裁判長が被告人をやさしくさとす場面もあります。
 
法廷は実に人間的で、不謹慎な言い方ですが、傍聴しているとまるで目の前でドラマが演じられているように感じられます。そしていろいろな意味で勉強にもなります。

皆さんも是非、お近くの裁判所で裁判を傍聴されてはいかかでしようか。


 裁判傍聴ガイド 

裁判は一部を除いた刑事裁判と民事裁判は、公開法廷の場で行われます。従って基本的に自由に傍聴できます。
・・・日本国憲法醍82条「裁判の対審および判決は、公開法廷でこれを行う。」
裁判所も裁判の市民による牽制という意味合から、傍聴を奨励しているようです。

ただし、家事・労働審判、審尋、朝廷、少年審判などは非公開で行われています。
家庭裁判所が取り扱う事件は原則非公開という判断でよいと思います。

法廷では当事者それぞれの人生を左右する内容を取り扱っています。傍聴する場合は、法廷の審理の進行を阻害したり、法廷の秩序を乱す行為は絶対に行ってはなりません。
後に述べられている注意事項を遵守して傍聴するようお願いします。

それでは、最高裁判所事務総局発行の「法廷ガイド 裁判を傍聴する方々のために」というパンフレットをもとに注意点などを述べていきます。
なお、本パンフレットには「イラスト以外の転載は自由です。」とあります。

Q. 裁判を傍聴したいのでいすが、事前申し込みなどの手続きが必要でしょうか?
A. 裁判を傍聴するのに事前申し込みなどの特別な手続きは必要ありません。
公開の法廷で行われる裁判は、原則として、誰でも傍聴することができますので、どの法廷でも自由にお入りいただいて結構です。ただし、傍聴希望者が大勢いる事件では、傍聴券が必要な場合があります。傍聴券は抽選になる場合があります。
なお、裁判所の表玄関の警備員がいる案内所には裁判の予定表(開廷表)がファイルにしておいてあり、また、法廷の入口にも、裁判の予定表(開廷表)が掲示されていますので、参考にしてください。
裁判員裁判の開廷日程は、最高裁判所HPの各地方裁判所サイト「裁判員裁判開廷期日情報」ページに記載されています。殺人あるいは現住建造物放火等の記載はありますが、具体的な内容は、当日の法廷で検察官の「起訴状朗読」で確認してください。

Q.   裁判を傍聴するときに、何か注意することはあるでしょうか。
A.   裁判の妨げになると困りますので、法廷ではお静かにお願いします。
法廷の入口付近に傍聴についての注意事項が掲示されていますのて、ご覧ください。
なお、法廷内では、写真撮影や録音は許可がない限りできないことになっていますので、ご注意ください。
一部の裁判所や、特定の事件の法廷が開廷される場合には、裁判所入口で持ち物検査をされる場合があります。

法廷入口付近に掲示されている注意事項

法廷を傍聴される皆様に                     
                                     
1 傍聴に際しては、裁判長の命令又は裁判所職員の指示に従ってください。

2 服装を整えて法廷に入ってください。はちまき、ゼッケン、タスキ、腕章などは着用しないでください。                   

3 危険なもの、旗、ヘルメット、ビラ、プラカードなどは持ち込まないで下さい。また、飲食はしないでください。                 

4 許可なく、録音・撮影することは禁止されています。                           ・

5 静かに傍聴してください。拍手・発言など審理の妨げとなる行為は禁止されています

6 携帯電話など音の出る機器の電源を切ってください。

以上のことに違反したときは、退廷を命じられ又は処罰されることがあります。

※法廷前の廊下では、携帯電話の使用をご遠慮ください。      




 刑事裁判の法廷手続き 
  
裁判の法廷での手続きを知っておくと、傍聴していても理解が深まるため、知っておくことをお勧めします。

刑事裁判と民事裁判では基本的に手続きは異なりますので刑事裁判について、最高裁判所発行の「法廷ガイド 裁判を傍聴する方々のために」に基づいて説明します。
 
・法廷の鍵は開廷時刻の10分位前に裁判所書記官が開けますので、傍聴席に入れます。

・検察官、弁護人が随時入廷します。

・書記官の指示で、被告人が拘置所の刑務官に連れられて入廷します。
このとき、手錠と腰縄で引致されて入廷しますので、最初見たときはドキッとします。
テレビドラマの裁判シーンと一緒です。
警察署の留置場から引致される場合は、手錠と革の腰ベルトと腰縄で引致されます。

・裁判長が入廷します。
このとき、法廷に居る全員が起立して裁判長に合わせて礼をします。これは裁判長が偉いからということではなく、法廷のしきたりとけじめとして行う儀式です。

・裁判長が、被告人の手錠の開錠を指示して後、刑務官が手錠を開錠します。

・裁判長が開廷を宣言します。

   [ 冒頭手続き ]   
 
人定質問
出廷している被告人が本人が被告人本人に間違いないかの確認を行います。
裁判長が被告人を証言台の前に立たせて、氏名、住所、本籍、職業を聞きます。
 
検察官の起訴状朗読   
検察官が事件の起訴を行った公訴事実と罪名・罰条を読み上げます。
被告人は証言台の前に立って、これを聞きます。

黙秘権の告知
裁判長が被告人に対して、被告人には黙秘権があること、被告人が本法廷で証言 した内容は被告人にとって有利にも不利にも取り扱われることになるため、慎重に証言すべきことを告げます。

被告事件に対する陳述
裁判長が被告人に対し、前に告げた黙秘権を踏まえて、検察官の読み上げた起訴内容が事実かどうか確認します。
  
否認事件の場合は、この場面で被告人が全面否認とか一部否認とか答えます。
  
次に裁判長は、弁護人にも同様に確認します。
被告人と同意見と答える場合が多いです。被告人が国選弁護人を拒否して、接見できずに法廷に出てきた場合がありましたが、「意見陳述できません」と答えていました。

   [ 証拠調べ手続き ]   
 
冒頭陳述
検察官が証拠によって証明しようとする事実を明らかにするために、事件の具体的な経過を読み上げ、甲号証ならびに乙号証の証拠調べを請求します。
甲号証は、犯罪事実に関する証拠で被告人の供述証拠を除いたものです。
乙号証は、被告人の供述調書や身上、前科関係の証拠です。
   
検察官のこれらの請求証拠に対して、弁護人は採用に同意するのか、不同意とするのか明らかにします。全て同意か、または一部不同意、全部不同意です。
   
検察官の証拠申請に対して、弁護側も証拠申請しますが、この場合「弁号証」と称します。
弁護側は反証するための証拠がある場合は、提出し証拠調べを請求します。
   
検察側の証拠申請の後、裁判長は弁護側の陳述について確認し、弁護側の証拠申請についても、検察側は同意、不同意の意見陳述します。
  
基本的に、検察側・弁護側の意見が一致したものについて、裁判長が証拠の提出を許可し、裁判長に手渡され、証拠調べの手続きに入ります。

犯罪事実に関する立証
検察側は証拠採用された証拠に基づき、まず甲号証の証拠を具体的に提示します。時には事件の現状写真を被告人に提示して具体的な犯行状況も確認します。時に生々しい事件の状況が語られることもあります。
   
被害者の証言や目撃者の証言もを証拠として採用されます。
それぞれ、法廷で証言を求める場合もあります。
被害者が被告人と顔を合わせることが無いように、衝立で被告人と遮蔽する場合もあります。特に女性が被害者の場合は衝立で遮蔽する場合が多いようです。
   
乙号証は被告人の身上に関するもの、被告人の供述調書の具体的内容が提示されます。被告人の生い立ちや経歴、犯行に至った経緯等が証拠書面に基づき語られます。

弁護側は、被告人が書いた反省文や謝罪文を証拠として提出したり、被害者と示談できている場合は示談者や賠償金の領収書が証拠として提出されます。

情状に関する立証
弁護側は被告人が冒頭で起訴事実を認めている場合や、あるいは否認した場合でも、量刑の軽減を図る目的で情状に関する立証を行います。

弁護側は、被告人が書いた反省文や謝罪文を書証として提出したり、被害者と示談できている場合は示談書や、被害者に支払った賠償金の領収書が証拠として提出されます。

(情状証人尋問)
弁護側は、被告人が犯行を犯すにいたった経緯や心情の立証、復帰後に再犯しないための被告人に対する管理・指導・治療体制があるということを立証のために、主に近親者や職場の上司を証人として出廷要請し、尋問します。

証人尋問に先立ち証人は、「うそ・いつわりなく真実を申し述べることを誓います」という宣誓書を読み上げます。その後、裁判長が虚偽の証言をした場合は偽証罪に問われる可能性があることを告げたのち、尋問に入ります。

情状証人尋問では、被告人の生い立ちや現在の生活状況、病気の状況等止むに止まれぬ状況があったことが、赤裸々に尋問されます。
   
また、被告人が復帰後に誰がどこで、どのように被告人を二度と再犯しないように管理・指導していくのかということも尋問されます。この体制ができていないと、社会に復帰後にふたたび同様の犯行に及ぶ可能性があるということで具体的にどうするということが、厳しく尋問されます。

(検察側反対尋問)
検察側も同様な証人に対して反対側の立場から、尋問します。検察側は主に、復帰後の被告人に対する管理・指導体制を尋問します。これは再犯防止のために大事なことですので、ただ単に「見守ります」ではなく、誰が・いつ・どういう頻度でどのように管理・指導するのかというように尋問します。

また、もしも被告人に同様の犯罪兆候を見つけた場合はどうするのか、警察に速やかに通報するのか等が尋問されます。

(裁判所側補充尋問)
弁護側、検察側の証人尋問に対して、裁判所から補充尋問がある場合は尋問されます。
裁判員裁判の場合は、裁判員から尋問される場合があります。

被告人質問
被告人に対して、弁護側、検察側それぞれが質問します。

(弁護側質問)
弁護側は、被告人の現在の心情や、復帰後に再犯防止のためにとる措置などについて質問します。

被害者に対する気持ちと謝罪、やってしまったことへの思い・後悔、まわりの家族をはじめとした関係者への謝罪の気持ち等を最初に質問します。

次に犯行にいたった経緯、心情、犯行当日の具体的な行動等を質問します。

(検察側質問)
検察側は犯行に至る経緯や、犯行当日の具体的な犯行状況を質問して、起訴内容の検証を行います。
  
具体的な犯行内容は、実際の犯行現場の状況を証言しますので、極めて生々しい内容が語られます。女性や子供には大変ショッキングな内容を証言する場合もありますので、傍聴する際は注意が必要です。

(裁判所補充質問)
裁判所から補充質問がある場合は質問されます。
裁判員裁判の場合は、裁判員から質問される場合があります。 

以上で証拠調べは終です。

   [ 弁論手続き ]   
 
検察官の論告・求刑
検察官は証拠調べによって、どれだけの事実が確認され、その事実はどの法律に適用するのか述べ、法律に照らして具体的にどのような量刑が適切かということを陳述します。
         
立証された具体的な事実を述べた後、適用する罪名・罰条と量刑(懲役〇年等)を陳述します。

弁護人の弁論
弁護人は、弁号証、情状証人尋問、ならびに被告人質問での証拠調べに基づき被告人の罪名・罰条と量刑について意見を陳述します。執行猶予付き判決を要望する、あるいは量刑の軽減に向け寛大な処置を要望するとの意見を陳述します。もちろん否認事件の場合は無罪の主張を行います。

被告の最終陳述
裁判終結にあたって、被告人が最終的に意見を陳述します。裁判所の決定する量刑にどれだけ影響するかはわかりませんが、裁判手続きが完了するにあたって被告人の思うところを述べます。

被害者への謝罪と親族への謝罪を述べる被告人もいますし、「何もありません」と述べる被告人もいます。

弁論終結
裁判長が全ての審理、手続きが終了したことを宣言します。結審の宣言です。
その後、裁判長が判決の言い渡し期日を調整します。弁護人、検察官の日程を調整し、判決の言い渡し日と時刻を決定します。

   [ 判決の宣告 ]   

裁判長がこの事件の判決を宣告します。
   
最初に主文を宣告します。主文は量刑となります。
[例]
「被告人を懲役〇年に処す。ただし未決勾留日数無△日を算入する。刑の執行を×年間猶予する。裁判にかかった費用を被告人に負担させない。」
     
次に、判決に至った説明と理由を述べます。量刑を決定した理由や、情状に対する説明や理由が述べられます。

裁判長は、被告人に対して諭す意味の言葉をかけることもあります。

最後に裁判長は、被告人に対して、上級裁判所への控訴手続きについて説明して判決の宣告を終えます。   

   [ 閉廷宣言 ]    
  
裁判長が閉廷を宣言します。このとき、法廷に在廷する全ての人は起立して礼をして閉廷となります。

被告人は、判決の内容によって、有罪判決であっても、執行猶予付きの場合は、そのまま社会へ復帰します。
  
懲役刑や禁固刑を宣告された被告人は、法廷まで迎えに来た刑務所の刑務官に引致されて所定の刑務所へ向かいます。


以上が、刑事裁判の法廷の流れとなります。
この間にいろいろな登場人物があらわれ、いろいろな人間模様をありますので、現実の裁判は本当に人間的なドラマが展開されます。

次回は、法廷用語の説明や、法廷あるあるなどをブログりますので、お楽しみに。
       

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