2019年5月24日金曜日

【裁判傍聴記】向かってくる相手にはこれからもやります

事件は12月末の某日深夜、M市の郊外のスナック前の駐車場で起こりました。
先に別の店を出た被害者3人が、たまたま駐車場に止まっていたタクシーに乗り込みました。ちょうどそこへスナックから被告人の1人が出てきましたので、タクシーの助手席の被害者が声を掛けました。被告人がこれを聞き返したところ、タクシーの後部座席の被害者の1人がこれに対して挑発して口論になった後、被告人3人が被害者3人をタクシーから引きずり出して一方的に殴る・蹴るの暴行を加え、被害者3人を負傷させたものです。


罪 状 傷害
被告人 A:30代前半男性、B:30代前半男性、C:20代前半男性
求 刑 A:懲役2年、B:追起訴あるため未定、C:懲役1年


 事件の概要 

平成30年12月末の×日深夜、M市の郊外の町のスナックや焼肉店が並ぶ雑居スペースの駐車場で、被告人A、B、Cの3人が20代前半の被害者D、E、Fの3人に殴る蹴るの暴行を加え、被害者3人を負傷させたものです。

この事件で、被害者Dは足で数回蹴られ加療3週間の鎖骨骨折、被害者Eは顔面を平手で殴打され加療10日間の頭部と顔面の打撲傷、被害者Cは顔面を拳で殴られ加療10日間の頸椎打撲傷の傷を負いました。

先に別の店を出た被害者3人が、たまたま駐車場に止まっていたタクシーに乗り込みました。ちょうどそこへスナックから被告人の1人が出てきましたので、タクシーの助手席の被害者が声を掛けました。被告人がこれを聞き返したところ、タクシーの後部座席の被害者の1人がこれに対して挑発して口論になった後、被告人3人が被害者3人をタクシーから引きずり出して一方的に殴る・蹴るの暴行を加え、被害者3人を負傷させたものです。

被害者3人は暴行途中からはひたすら謝りつづけ、被告人Cも止めに入りましたが、被告人AとBは暴行を止めませんでした。
事件当時被告人3人と被害者3人は、相当酒に酔っていました。

事件の目撃者の警察への通報で警察官が現場に駆け付け、被告人3人は警察へ連行され、タクシーの運転手の証言と被害者3人のケガの状況から、傷害の疑いで逮捕されました。

被告人A、B、Cは仕事上の付き合いがあり、Cも年は離れていましたが仲良くしていました。

被告人Aは、中学を卒業後建設業を転々とし、現在は板金工として働いています。前科3件と前歴6件があり、平成28年に酒気帯び運転による過失運転致傷で執行猶予付きの判決を受けましたが、その後窃盗の罪で逮捕され執行猶予が取り消され、刑務所に服役し平成30年6月に出所しました。妻と2人の子供がいます。

被告人Bは、高校を卒業後中古車販売店に就職し、妻と2人で生活しています。罰金刑の前科が3件あります。

被告人Cは、中学を卒業後板金工として働いており、母親と長女の3人暮らしです。少年事件の前歴が3件あります。

被告人AとBは小学校の同級生で、被告人Cの1廻り年上で、被告人AとCは仕事上の先輩後輩です。

法廷へ、被告人Aは拘置所から手錠・腰縄で出廷し、被告人BとCは保釈されていましたので、傍聴人席から出廷しました。


 罪状認否 

被告人A:認めます。弁護人も同意見。
被告人B:認めます。弁護人も同意見。
被告人C:認めます。弁護人も同意見。


 冒頭陳述・証拠申請 

検察官が事件の概要に記載の内容を陳述し、検察側の証拠調べを申請しました。

これに対して、
被告人Aの弁護人:全て同意。
被告人Bの弁護人:不同意ではないが、細部不同意。
被告人Cの弁護人:一部不同意。

としたため、弁護人が同意とした証拠調べに入りました。


 検察側証拠調べ 

・警察署への通報「男同士が3対3でケンカしている。」
・事件現場の血痕
・被害者Dは金銭によれる示談が成立しており、「被告人Cには寛大な処分を」と陳述。
・被害者Dの警察での陳述「付近の店で飲んでいた。店を出てタクシーに乗り込んでいたところ引きずり出された。Aには厳正な処罰をお願いしたい。」
・被害者Eの警察での陳述「自分たちはタクシーに乗り込んだが呼んではいなかった。被告人が「ケンカ売ってんか」と言ったので「やったろか」と反論してケンカになった。」
・被害者Fの警察での陳述「タクシーの配車予約をして出ていった。助手席の被害者は被告人に「違っていましたか」と言い、「すみません」とも言った。」

この時点で、被告人Bには別件で追起訴があるとして、被告人Bを退廷させ、被告人AとCが残り審理が再開されました。


 弁護側証拠申請・証拠調べ 

弁護人は、被告人Aの妻被告人Cの母親情状証人申請しました。

被告人Cの証拠書証として、下記を申請しました。
・被害者との示談書
・被害者から被告人Cに対する減刑嘆願書
・被害者3人が各々3万円を「迷惑料」として受け取ったという書面

検察官が全て同意しましたので、弁護側の証拠調べに入りました。


 弁護側情状証人訊問 

 被告人Aの妻の証人訊問 

弁護人
被告人は酒を飲むと暴力的になるか?
証 人
なりません。やさしい人だと思います。

弁護人
被告人は、今後被告人BやCとの付き合いをどうすると言っている?
証 人
今後は付き合いはしないと言っています。

弁護人
家族の生活は?
証 人
主人と私と子供2人の4人ぐらしで、以前は夫が生計を支えていました。今は障害を持つ娘がいるために私が働きに行けませんので、生活保護で生活しています。

弁護人
今後どのように被告の更生を監督するか?
証 人
支え続けます。

検察官
被告人が平成30年6月に出所して、11月頃から一緒に暮らし始めたのか?  その後被告人は夜飲みに行くことは?
証 人
ありませんでした。事件当日はたまたまです。

検察官
出所後すぐの犯行、厳しい処分となることは分かっているか?
証 人
分かっています。待っています。酒の席には行かせないようにします。

検察官
もし繰り返したらどうなるか分かっているか?
証 人
辛い思いをしますので、繰り返さないと信じています。

 被告人Cの母親の証人訊問 

弁護人
証人と被告人の生活は?
証 人
私がクリーニングの工場で働き、被告人と長女と3人で生活しています。

弁護人
今回の事件はどういうふうに知ったか?
証 人
事件の翌朝、息子からの「今警察、ごめんなさい。パクられるかも知れない。」というLINEが入っていたので知りました。成人後警察のお世話になるのは初めてでした。
その後、当直弁護士から、3対3のケンカで捕まったと連絡がありました。
接見解除後は仕事の合間をみて週1回面会に行きました。
「ごめんなさい」から「原因」その後「反省」と話し、元気がありませんでした。

弁護人
保釈金と身元引受人は誰が用意したか?
証 人
私がお金を用意して、身元引受人になりました。

弁護人
被告人は事件の状況をどのように言っている?
証 人
店を出た瞬間にケンカが始まっていたと言っています。

弁護人
手を出したことについてどう思う?
証 人
その時に、して良いことと悪いことを考えて行動してほしかったと思います。

弁護人
被告人の今後の生活をどのようにしていく?
証 人
穏やかな生活を送って、いい人と付き合ってほしいです。考え方をしっかりしてほしいです。私自身が息子と「話をすること」「見守ること」で関わっていきます。息子には私の行動を見てほしいです。

検察官
少年の頃、警察の世話になった。平成28年に公務執行妨害で少年院に入り、平成29年に出所しているが、出所後の様子は?
証 人
少年院に行ってよかったと思っています。出てから穏やかになりました。

検察官
被告人の保釈後の様子は?
証 人
真面目に仕事に行っています。このまま真っすぐにいってくれるよう願っています。

検察官
被告人が夜遊びしたときはどうする?
証 人
そのようにならないにします。

裁判長
被告人が逮捕された原因をどう考えている?
証 人
何も考えずにケンカに入って、止めに入ったことだと思います。

裁判長
保釈後、夜遊び含め真面目になったのか?
証 人
真面目になりました。


 被告人質問 

 被告人A  

弁護人
スナックを出たとき、何故ケンカになった?
被告人
私が店を出ると先に出ていた被告人Bがタクシーの助手席の奴と話をしていました。揉めているのか分かりませんでしたが、止めに行こうと思いました。
そのとき後部座席の奴が絡んできましたので、ケンカを売られたと思いました。向こうの方がよけい噛んできていました。

弁護人
興奮して手をあげることはよくあるのか?
被告人
ないです。
その時は、ケンカを売られたと思いました。売られたケンカを買わないということはありません。

弁護人
被害者に対しての思いは?
被告人
やり過ぎてしまった、ひどいことをしてしまったと思っています。万一の事もあるのにひどいことをしました。

弁護人
家族の生活を支えていたのは誰か?  今後家族にどう応えていくのか?
被告人
自分ですが、今は何もしてあげられないのがしんどいです。妻は「許してくれる」「待っていてくれる」と言ってくれています。二度とこのようなことをしないようにします。

弁護人
ケンカを売られて、手が出た。ケンカを売られて何故手を出した?
被告人
手を出すのは問題です。

弁護人
被害者に対する今の気持ちは?
被告人
申し訳ないと思っています。

検察官
平成30年6月に出所後、どのように生活していた?
被告人
慎重に、何もしたらあかんなと思って生活していました。

検察官
何故殴る直前に踏みとどまらなかった?
被告人
自らの行動を反省しています。

検察官
今後出所後、Bとの付き合いは?
被告人
Bとは付き合いしません

裁判長
タクシーの助手席の被害者Dから「タクシー間違っていましたか?」と言われたのか?
被告人
「なに、もう一回言って」と言ったら、後部座席の被害者Eが「やったるわ」と言いました。

裁判長
Eは酔っぱらっていたのか?
被告人
よく覚えていません。

裁判長
とてもケンカになる相手ではなかったのでは?
被告人
謝らずに向かってくるのはやります。これからも。

裁判長
売られたケンカは買うのか?
被告人
逃げるか、ケンカはやりません。

裁判長
出所してすぐだということは考えなかったのか?
被告人
向かってくる相手に必死でした。

裁判長
いま振り返ってどう思う?
被告人
いつも止め役だったのに、何故火が点いたのか不思議です。

 被告人C  

弁護人
何故、スナックへ行った?
被告人
夜遅くにAから電話がかかってきて、今スナックで飲んでいてBと言い争いになっているので来いと言われました。

弁護人
ケンカの際に被害者に平手打ちをしたのは間違いないか?
被告人
被害者が何の返事もしなかったのでやりました。ダメだと分かっていました。
先輩の前でカッコつけたかったのだと思います。
やってはいけないことをしたと思っています。

弁護人
今後同じような場面になったら?
被告人
ケンカを止めるか立ち会わないようにします。

弁護人
被害者の間に入って止めたのは?
被告人
相手のケガを見て、やりすぎと思いました。

弁護人
今からあの時の自分を見てどう思う?
被告人
アホやなと思います。

弁護人
今後、他人を傷つけることは?
被告人
しません。

弁護人
少年院の事件も、今回の事件も他人についていって関わってしまったのか?
被告人
今後は、自分のためになる人と付き合っていきます。

弁護人
今の仕事は?
被告人
自営業の板金工として応援で現場に入っています。収入は多いときで月30万円位で、家に月3万5千円入れています。月10万円あるかないかの月もあります。

弁護人
今後被告人A、Bと会うことはあるのか?
被告人
仕事の関係での付き合いはしますが、以前のような付き合いはしません。

弁護人
被害者に対してどう思う?
被告人
ひどいことをしたと思っています。

弁護人
今後は犯罪はしないか?
被告人
しません。仕事中心に生きていきます。

検察官
少年院の事件について他人についていってやったと言ったのは?
被告人
自分の問題と分かっています。

検察官
ケンカでは被告人が先に手を出したのか?
被告人
順序は分かりませんが、手を出しました。

検察官
被害者は反撃したのか?
被告人
よく覚えていません。謝りたいです。

検察官
警察の世話になったらダメだとは思っていた?
被告人
思っていました。反省しています。

裁判長
被告人が店を出たとき、既に殴り合っていた?
被告人
揉めている状況で、よく分かりませんでした。

裁判長
お母さんの証言を聞いてどう思った。
被告人
裏切るようなことをして申し訳ないと思っています。

裁判長
見栄をはるようなところがあるのか?
被告人
そういうところは変えないといけないと思っています。


 論告求刑 

論 告
被害者をタクシーから引きずり出して、殴る蹴るの暴行を加えており、悪質で被害者の負傷程度は鎖骨骨折などで、生じた結果は大きい。
犯行動機に斟酌の余地はなく、規範意識に乏しく、再犯の可能性もある。

求 刑

被告人Aに対して、懲役2年を求刑する。

被告人Cに対して、懲役1年を求刑する。


 弁護側最終弁論 

被告人Aの弁護人

公訴事実は争いません。
本人は反省しており、今回の犯行が危険なことを再認識しています。
被告人は自分には大切な家族があるということを痛感しています。
家族も1日も早い帰りを待っています。
被告人には、酌むべき事情がありますので、寛大な判決をお願いします。

被告人Cの弁護人

公訴事実は争いません。
被告人は罪を認めています。
平成30年1月、被害者との間に示談が成立し、被害者1人あたり3万円の迷惑料を支払っていますので、厳罰を与える必要はないと考えます。
本人は後悔と反省をしており、共犯者とは付き合わないと言っています。
母親も監督を約束しています。
従って、執行猶予付きの判決を望みます。


 被告人最終陳述 

被告人A ありません。

被告人C ありません。


 裁判の向う側 

典型的な酔っ払いのケンカですが、ケンカの強さ・手慣れ具合は被告側が圧倒的に勝っていました。

被告人AとBは、スナックでの言い争いのしこりもあったのでしょうか、被害者から挑発的な声を掛けられカッときてしまったのでしょう。被害者も酔っぱらっていたとはいえ、相手に挑発的な言葉をかけたということも、ケンカの原因の一端でもあります。

ケンカ両成敗という言葉がありますが、今回の事件は圧倒的な力と経験の差もあり、被害者側が骨折という重症も負っていますので、そうはいきません。やはり加害者と被害者に分けられ、刑事事件となると加害者側が責任を負うということになるのでしょう。

被告人Cとは賠償責任について示談が成立したようですが、被告人AとBに対して被害者側がどう対応するか分かりませんが、民事で賠償責任を問うということになれば、被害者側の過失責任も問われ相殺されることになると思います。

被告人Aは、守るべき家族が待ってるのに軽はずみなことをしてしまいました。しかし被告人Aの証言を聞いていると、「向かってくる相手にはやる」と売られたケンカは買うかのごとく証言もしています。もう少し反省が必要だなとも思いました。

被告人Cは、証言を聞いている限りでは、真面目な青年という印象を受けました。今回の事件を糧として、前を向いて進んでほしいと応援するものです。

酒はほどほどにしましょう。

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