2019年5月24日金曜日

【裁判傍聴記】「お前はうるさいんじゃ、殺すぞ。刺すぞ。」

この事件で被告人は、「暴力行為等処罰に関する法律違反」と云う少し聞き慣れない法律で起訴されました。
80歳の高齢の被告人は、長男(40代後半)に対して、「お前はうるさいんじゃ、殺すぞ。刺すぞ。」と言いながらハサミを手に取り、被害者に向かってきました。



罪 状 暴力行為等処罰に関する法律違反
被告人 80歳 男性
求 刑 次回以降の公判廷で


 事件の概要 

平成30年12月△日午前8時頃、高齢の被告人は、朝から自宅でこちらも高齢の妻とささいなことからケンカとなり、妻の顔面を殴ったうえ、電気ポットを投げつけるなどしていました。

同居していた長男(40代後半)が、このケンカを止めに入ったところ、これも口論になり
ました。被告人は長男に向かって「お前はうるさいんじゃ、殺すぞ。刺すぞ。」と言いながら近くにあったハサミを手に取って、刃先を長男の方に向けて向かって来ました。

長男は、被告人の妻と一緒に二人で被告人の手からハサミを落とした後、被告人を取り押さえました。その後長男は警察に通報し、被告人は駆け付けた警察官によって身柄を確保され、最寄りの警察署に連行された後、暴力行為等処罰に関する法律違反」で現行犯逮捕されました。

被告人は、九州の中学を卒業後、地元の製鉄所に就職し、その後は各地を転々とし、最終的にA県で働くこととなり、現在の地に妻と長男の3人で居住していました。

被告人には、過去にも妻の頭部を鈍器で殴って、警察に逮捕されるという前歴があります。


 罪状認否 

被告人は、耳が聞こえないと申告し、裁判所書記官から補聴器を貸し与えられて耳に付けましたが、それでも良く聞こえないというので、検察官は被告人の耳元まで近寄って大きな声で起訴状を朗読しました。

裁判長が検察官の起訴状の朗読の後、被告人に黙秘権の告知をしましたが、これも良く聞こえません。裁判長は壇上から降りて被告人の耳元まで近寄って黙秘権をつげましたが、あまり良く聞こえていないという様子でした。

裁判長は、弁護人に被告人をフォローするよう促した後、被告人に罪状認否の確認をしましたが、返ってきた答えは「憶えていません。」でした。
国選弁護人は、被告人と接見であまり話が出来ていないとして、罪状認否を「留保」としました。


 冒頭陳述 

裁判長は、弁護人と検察官と協議のうえ、罪状認否は不詳でしたが、冒頭陳述まで手続きを進めることとし、検察官は冒頭陳述を開始し「事件の概要」に記載した内容を陳述しました。
このときも被告人は、聞こえていないのか、聞こえていても理解できないのか、落ち着かない様子でした。

検察官はこの後、証拠調べを請求しましたが、弁護人の意見は「留保」でした。


結局、この日はこれ以上の手続きを進められないとして、裁判長は弁護人に対し事前準備
の督促を行いましたが、次回期日が決められないとしたまま閉廷しました。


 裁判の向う側 

被告人は、正月を挟んでおよそ1月半の間、警察に留置されたショックと高齢による加齢が重なって、一時的な認知症的な症状が出たのでしょうか。裁判長も手を焼く状態でした。事情は良くは分かりませんが、弁護人はいくら国選とはいえ、もう少し事前に準備できなかったのかなとも思いました。裁判が長引くと高齢の身の被告人には留置場の生活は厳しいものがあると思います。

事件は、高齢者の暴力事件です。この種の事件は老人介護施設でも多くあるようで、よくメディアで話題になっており、「切れ老人」の事件が後を絶たないという現状があるようです。

70代~80代になると高齢者は、「幼児退行」という状態が多いようで、「我がまま」な行動が多くなってきます。電車に乗っていても、車で街中を走っていても、高齢者の
「傍若無人」ぶりが目に余ることもあります。

また「切れ老人」は何も「怒っている」「怒鳴っている」ということだけでなく、社会の中で自らの義務を果たさずに、単に高齢者ということだけで、全てにおいて優遇されるのが当然と考えている人達のことも当てはまると思います。

この年代は戦前から戦中戦後を生き抜いてきて、日本の高度成長期の景気の良い時代も生きてきているので、「生き馬の目を抜く」ぐらいでないと生きてこれなかったのかもしれません。戦前・戦中・戦後世代の高齢者が最も多い現代は、このことも「切れ老人」が増えている原因なのかも知れません。

それにしても、被告人の妻は、今まで良く耐えてきたのですね。今後裁判はどういう局面を迎えるか分かりませんが、被告人はこれに懲りて、この先は穏やかな余生を送ってもらいたいものです。

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