2019年5月22日水曜日

【裁判傍聴記】二度と犯罪行為を行わないことを誓います

今回の事件は、脇道から本線に進入する際に一時停止を守って、慎重に進入したに関わらずバイクが本線車道を30kmの速度超過の80kmで走行していたために、進入してきたトラックに激突し、バイクの運転者が死亡したという事件です。トラックの進入の仕方に問題があったということで過失運転致死が問われています。



罪 状 過失運転致死
被告人 30代後半 男性
求 刑 禁固1年2月


 事件の概要 

平成30年△月×日、被告人は同僚のトラック2台とともに、トラック3台を連ねて土木工事の現場へ向かいました。被告人が運転するトラックは2台目です。

片側3車線の優先道路となる広い道路へ差し掛かり、この道路の2車線を横断して3車線目の右折レーンに入るべく、先行するトラックに続いて交差点で一時停止して左右確認した後、優先道路へ進入しました。

このとき優先道路側には右側から左進行方向へ2台のバイクが走行していましたが、被告人は後続のバイクには気付いていませんでした。被告人は1台目のバイクをやり過ごして、優先道路へ進入しました。後続のバイクはこれに気付き急ブレーキをかけましたが、間に合わず転倒し、転倒したまま被告人のトラックに追突しました。

被告人はすぐにトラックを止めて、バイクの運転者の救護にあたり、救急と警察に通報し、バイクの運転者は近くの病院に搬送されましたが、後死亡が確認されました。

バイクは制限速度50kmの道路を時速80kmで走行しており、30kmの速度超過でした。

事故原因は、警察の検証で被告人の交差点進入時の注意不足と判定されました。

被害者の遺族は、「主人が亡くなって家族全員が情緒不安定になっています。主人は確かにスビードを出していましたが、被告人が当然払うべき注意を払っていれば、こんな事故にはならなかった。人一人の命を奪っていることを理解してほしい。」の述べています。

被告人のトラックは、会社が対人無制限の任意保険に加入していましたので、現在は賠償について保険会社と被害者遺族の間で交渉中です。

被告人はこの事故の3ケ月前に前刑の刑期を終えて出所して、兄の紹介で土木関係の会社に就職して働いていましたが、今回の事故を起こしました。

被告人は多数の交通違反歴があり、平成25年には免許を取り消され、前刑出所後に再取得しています。


 弁護側情状証人尋問 

弁護側情状証人として、被告人の兄が出廷しました。

弁護人
あなたと被告人の関係は?
証 人
兄です。

弁護人
前刑で出所後、被告人の生活態度は?
証 人
出所してからは、仕事をしようとしていましたので、私の知りあいの土木関係の工事会社を紹介して、そちらに就職して働いていました。

弁護人
事故後の被告人の態度は?
証 人
車の運転はやめています。車の運転をしなくてもよい近くの工場で働いています。

弁護人
遺族に対して謝罪は?
証 人
もちろん謝罪したいと思っています。警察に相手方の連絡先を聞きましたが答えられないと言われています。被告人は車の運転はしないと言って、自分の娘にも命の大切さを教えています。

弁護人
今後は?
証 人
自分が経営している会社で一緒に仕事をしていきたいと思っています。被告人の家族ともども自分の近くで生活させ、見守っていきたいと思っています。

検察官
出所後の被告人に証人が仕事を紹介したのか?
証 人
土木の仕事を紹介しました。車の運転も必要な仕事です。。

検察官
被告人には、免許取り消しの前歴がある。危なっかしい運転ではなかったか?
証 人
それはなかったです。


 被告人質問 

弁護人
平成29年11月に前刑で出所後、しばらく生活保護で生活していたということだが、運転免許を再取得したというのは何故か?
被告人
仕事の幅が広がると思ったからです。

弁護人
事故当日、現場で行くためトラックを運転して、3台のうちの真ん中を走行していたということだが、現場への道のりは聞いていたのか。
被告人
聞いていませんでした。前の車についていくだけでした。

弁護人
事故があった交差点ではどうしたのか?
被告人
広い片側3車線の優先道路と交差する交差点に差し掛かって、一旦停止して左右確認しました。そのとき右から左に進むバイクを見ましたが、その後ろからも被害者のバイクが走ってくるのは気付きませんでした。もう少し慎重に交差点に進入すればよかったと思います。優先道路に入ってから、右折することは分かりましたので、進入後すぐに右折レーンに入ればよかったと思います。

弁護人
被害者のバイクが転倒した後、トラックに追突したが分かったか?
被告人
追突された音と感覚で分かりました

弁護人
事故の原因は?
被告人
交差点に入るときに、周囲を確認して一旦トラックの鼻先を出して、注意喚起すればよかったと思います。

弁護人
交通犯歴から運転に問題がある。今回の事故の前にも免停講習を受けていたのでは。
被告人
2回目の免許なので大事にするため、安全運転に心がけていました。

弁護人
土木の会社での運転に不安はなかったのか?
被告人
ありました。

弁護人
今の仕事は? 今後の車の運転は?
被告人
仕事は製造業です。仕事でもプライベートでも車の運転はしません。

弁護人
被害者に対する気持ちは?
被告人
申し訳ないと思っています。誠意をもって遺族の方に対応していきます。直接の謝罪もしたいと思っています。

弁護人
今後どのようにしていく?
被告人
まっとうに生きていきたいと思っています。子供のために犯罪を犯しません。

検察官
事故現場の見通し見分に立ち会ったとき、後続のバイクも見通せたのではないか?
被告人
見通せました。

検察官
今後は?
被告人
被害者遺族の方への謝罪をしたいと思っています。そして二度と犯罪を犯しません。車は運転しません。


 論告求刑 

論 告
被害者の妻は事故後は夜も寝られないと訴えている。被害者の長女と次女も二人とも情緒不安定になっている。被告人の注意不足による事故で過失は重大である。平成25年には免許取り消しになったに関わらず、今回の事故をおこしているのは、規範意識が薄いに他ならない。

求 刑
禁固1年2月


 弁護人最終弁論 

被告人は反省して、今後は車を運転しないと言っている。被害者遺族へ直接謝罪をしたいと言っている。土木会社のトラックが人身無制限の任意保険に入っており、被害弁済と損害賠償はこれで行われる。
民事の場合、30km以上の速度超過は過失の修正要素として取り扱われる。

本件は粗暴運転ではない。罰金刑をお願いする。


 被告人最終陳述 

遺族の方には申し訳ない思いでいっぱいです。
二度と犯罪行為を行わないと誓います。


 裁判の向う側 

今回の事故は、被告人が前刑の出所後、前向きに働こうとしていた矢先の事故でした。

確かに免許取り消しや免停を受けていながらの注意不足の事故は、被告人の規範意識の薄さを露呈して最悪の結果となった事故です。

被害者や被害者遺族にとっては、とうてい許すことのできない事故であり、突然の最愛の人の死を受け止めることは難しく、またこれが被告人の過失によるものですから、被告人に対する憎しみはひとしおだと思います。

被告人は、誠意をもって被害者の遺族に対応してほしいと思います。生涯背負っていくという覚悟をもって、家族とともに前向きに生きていってほしいと思います。そして二度とこのような不幸な結果を招くようなことはしないと誓ってほしいと思います。

この事故は他人事ではないということは、自らも肝に銘じて、車を運転していきます。

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