運送業者である被害者は、引っ越し荷物を搬出するため、マンションの駐車場に普通トラックを駐車して、客先の居室に向かった隙に、トラックの助手席に置いていた財布とリュックサックを盗まれました。
被害は財布の現金5万円、財布に入れていたETCカード、キャッシュカード、運転免許証、リュックサック千円相当でした。
罪 状 窃盗
被告人 30代後半 男性
被告人 30代後半 男性
求 刑 懲役2年6月
判 決 懲役1年6月 未決拘留日数100日を算入事件の概要
平成30年×月〇日、運送業者である被害者は、引っ越し荷物を搬出するため、マンションの駐車場に普通トラックを駐車して、客先の居室に向かった隙に、トラックの助手席に置いていた財布とリュックサックを盗まれました。
被害は財布の現金5万円、財布に入れていたETCカード、キャッシュカード、運転免許証、リュックサック千円相当でした。
被害者は、当日冷蔵庫と洗濯機他を客先の居室から搬出して、トラックで引っ越し先へ運送する予定でした。被害者は、客先の居室に向かう際、財布が仕事の邪魔になると思い、トラックの助手席に置き、その上からリュックサックを掛けて外から直接財布が見えないようにしていましたが、トラックには施錠していませんでした。
客先の居室からトラックに戻った被害者は、助手席の財布とリュックサックがなくなっているのに気づき、警察に通報しました。
警察は捜査のなかで、被害者がトラックを離れてから戻ってくるまでの間に、マンションの防犯カメラに映っている人物を調べたところ、当該時間帯に被告人の部屋から出て、駐車場に立ち寄り、その後マンションを出ていく人物が防犯カメラの映像に映し出されていました。
警察で捜査の結果、被告人を特定し窃盗の容疑で逮捕したものです。その後、被告人の部屋を捜索したところ、防犯カメラに映っていた人物が来ていた服装に酷似して衣服が出てきたため、押収して証拠としました。
被告人は、平成15年以降、前科が4件あり、前回は窃盗で懲役1年2月の実刑判決を受け、服役しました。
検察側証拠追加請求
検察官は、書証1件を証拠申請しましたが、弁護人不同意、裁判長も却下して証拠採用されませんでした。
また、捜査にあたった警察官を証人尋問すべく法廷に招いていましたが、弁護人不同意し、裁判長も却下しました。検察官は却下に対し不服申し立てしましたが、裁判長はすぐさま棄却しました。よって追加証人尋問はなりませんでした。
論告求刑
論 告
検察側が証拠として採用された証拠に基づき陳述した事実は、「事件の概要」に記載したとおりです。
被告人質問の際に、被告人が証言した内容は、次のとおりです。
●事件の何日か前に、部屋の予備の鍵を落としてなくした。
●今回の事件の犯人はこの落とした予備の鍵を使って、自分の部屋に侵入し、自分の服を着て出て行き、今回の犯行に及んだのではないか。自分は犯行のあった日は別の服装をしていた。防犯カメラに映っていた人物は自分ではない。
●検察官の捜査の際、調書に無理やりハンコとサインをさせられた。
以上のことは捜査段階では供述しませんでしたが、法廷ではひるがえって証言しました。
被告人の証言はとうてい信じがたく、犯行は身勝手で大胆で生活保護の金が底をついていたために行った大胆で悪質な犯行です。
被害者は、運転免許証、ETCカード、キャッシュカード、現金を盗まれ、被害額も大きく、またキャッシュカードをストップせざるを得ず、当座の生活への影響は大きい。
被告人は平成15年以降、前科が4件あり、前回は窃盗で懲役1年2月の実刑判決を受けて服役しているにも関わらず、今回また犯行におよんでおり、反省もなく、再犯の可能性が高い。
求 刑
懲役2年6月
弁護人最終弁論
以下に述べることから、被告人の無罪を主張します。
●防犯カメラの映っている人物は、服装が被告人の服装と違うため、被告人ではない。
●警察が被告人宅から押収した衣服は、防犯カメラの映像と同一ではない。
●防犯カメラには、被害者のトラックから盗み出す場面が映っていない。
●防犯カメラの映像の時間経過では、トラックのドアを開けて盗み出すという一連の動作は、短時間すぎて無理が生じて不合理である。
●防犯カメラに映っている犯人とされる人物が持っている盗んだ黒っぽいカバン(リュック)は、一般的なものであり、盗んだものとは特定できない。被害者も自分のものである可能性は80から90%と証言しており、異なるということも否定できない。
なお、万一被告人が有罪としても、検察官が求刑する懲役2年6月は、情状から考えて過酷な量刑と考えます。
被告人最終陳述
私は無実です。
判 決
主 文
被告人を懲役1年6月に処す。未決拘留日数100日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人に負担させない。
理 由
防犯カメラの映像には人物が車両左側に映っており、その人物は車両に近づく前は手に何も持っていなかったものが、車両を通過後には手に物を持っているのが確認できる。当該車両から持ち出したと追認するのが合理的で、強く追認される。また、被告人は他人が被告人方に出入りして自分の服を着て犯行を犯したと主張するが、これは極めて不合理である。
量刑の理由として、犯行が大胆で悪質であること、被害金額が5万円を超えて多額であること、前科を有しており再犯の可能性がある。加えて不合理な証言をするなど規範意識が鈍磨している。
裁判の向う側
今回の事件は、警察・検察ともに不鮮明で、かつ決定的な場面も映していない防犯カメラの映像のみを状況証拠として、捜査を進めたことに問題があるのではないでしょうか。
裁判長もそこを言いたかったのではないでしょうか。
「もっとしっかり固めて起訴しなさいよ」(裁判長は女性でした)
この不確実な状況証拠が、被告人の荒唐無稽と思われる証言
「誰かが自分が落としたスペアの鍵で自分の部屋に入り、自分の服を着て出て行き、防犯カメラに映っていた」
を引き出したのではないでしょうか。(こんな偶然は普通考えられないでしょ。)
被告人は、偽証罪に問われることはありませんし、「疑わしきは被告人の利益に」の原則があります。
弁護人は国選でしょうが、捜査の弱点をついた弁護をしているなと思いますが、もし本当に被告人が盗んでいたとすれば、この弁護方法はいかがかなとも思います。
量刑は求刑とはかけ離れていましたか、判決の有罪の実刑判決は妥当な決定をされたことは安心しました。
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