2019年5月20日月曜日

【裁判傍聴記】金融庁の職員です。キャッシュカード預かります。

被告人は他の共犯者2名と共謀して、特殊詐欺の「受け子」の役割として「金融庁の職員」を名乗り、4名の高齢者からキャッシュカード他を窃取し、その後「出し子」の役割として窃取したキャッシュカードを用いて、コンビニエンスストアの現金自動預け払い端末から約650回に亘って、計1000万円余の現金を引き出し、窃取したものです。

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罪 状 窃盗罪
被告人 60代後半 男性
求 刑 懲役5年
判 決 懲役3年 未決勾留期間100日を算入


 事件の概要 

平成29年10月〇日、被告人は他の共犯者2名と共謀して、特殊詐欺の「受け子」の役割として「金融庁の職員」を名乗り、4名の高齢者からキャッシュカード他を窃取し、その後「出し子」の役割として窃取したキャッシュカードを用いて、コンビニエンスストアの現金自動預け払い端末から約650回に亘って、計1000万円余の現金を引き出し、窃取したものです。
この後、被告人は主犯格の男から75万円の報酬を受け取っています。
 
1回目は、平成29年10月〇日、共犯者はA市在住の93歳の女性宅に金融庁を名乗って電話して、「お宅の預金口座が不正に使用された疑いがある」「金融庁の職員を向かわせるので、調査のためキャッシュカードを預けてほしい」と虚偽の内容を伝えました。
その直後にスーツ姿の恰幅の良い被告人が女性宅を訪ね、金融庁職員を名乗ってキャッシュカード1枚を受け取り、持ち帰ったものです。被害者には、カード状のプラスチック板を封筒に入れたものを代替品として渡しています。
このとき、被害者はポイントカードも被告人に渡しています。

2回目は、1回目と同日、共犯者はB市在住の84歳の女性宅に同じく金融庁を名乗って電話し、「お宅の預金口座が不正使用された疑いがある」「個人情報漏洩の疑いがある」「金融庁の職員を向かわせるので、調査のためキャッシュカードを預けてほしい」と虚偽の内容を伝えました。
その直後に前件と同様にスーツ姿の恰幅の良い被告人が女性宅を訪ね、金融庁職員を名乗ってキャッシュカード1枚を受け取り、持ち帰ったものです。被害者には、カード状のプラスチック板を封筒に入れたものを代替品として渡しています。

3回目は、2回目の同日夕刻、共犯者はB市在住の84歳の女性宅に警察を名乗って電話し、「お宅の預金口座が不正使用された疑いがある」「金融庁の職員を向かわせるので、調査のためキャッシュカードを預けてほしい」と虚偽の内容を伝えました。
その直後に前件と同様にスーツ姿の恰幅の良い被告人が女性宅を訪ね、金融庁職員を名乗ってキャッシュカード3枚を受け取り、持ち帰ったものです。被害者には、カード状のプラスチック板3枚を封筒に入れたものを代替品として渡しています。

4回目は、2回目の1週間後の平成29年10月□日、共犯者はA市在住の89歳の女性宅に警察を名乗って電話し、「お宅の預金口座が不正使用された疑いがある」「金融庁の職員を向かわせるので、調査のためキャッシュカードを預けてほしい」と虚偽の内容を伝えました。その直後に前件と同様にスーツ姿の恰幅の良い被告人が女性宅を訪ね、金融庁職員を名乗ってキャッシュカード1枚を受け取り、持ち帰ったものです。被害者には、カード状のプラスチック板1枚を封筒に入れたものを代替品として渡しています。

平成29年10月〇日から10月□日の間に、被告人は「出し子」の役割としてA市内のコンビニエンスストアの複数の店のEF銀行の現金自動預け払い端末から、前後約650回に亘り計1000万円余の現金を引き出し、窃取したものです。

被告人は前科3犯で、犯行前はタクシーの運転手をしていましたが、ギャンブルに手を出して借金がありました。借金の返済のために今回の犯行に加担したと供述しています。


 弁護側提出証拠 

弁護側より、被害者に対して一部被害弁済した約30万円の受領書と、被害者からの減刑の嘆願書が提出されました。


 被告人質問 

弁護人
何故犯行に加担することになったのですか。
被告人 
ギャンブルで金融会社に借金があり、その返済のために仕方なく手伝いました。
弁護人
あなたが犯行の指示をしていましたか。
被告人
いいえ。私は共犯者からの指示で動いていただけです。全体がどのように動いているのか知りませんでした。

弁護人
あなたに犯行を誘ってきた共犯者は、どのような人物ですか。
被告人
詳しく知りませんが、自分と同じような環境で、生活保護受給者だと聞いています。

弁護人
被害者に対してどのように考えていますか。
被告人
大変申し訳ないことをしてしまったと思っています。

弁護人
被害者に対して一部被害弁済しましたが、今後どうしようと考えていますか。
被告人
時間はかかりますが、できる限り被害弁済していきます。

検察官
被告人は今回の犯行が、特殊詐欺だということを分かって犯行に加わったのですね。
被告人
分かっていましたが、借金の返済のため仕方なかったのです。
検察官
借金の返済は、他の方法も考えられたのではないですか。
被告人
借金の返済に困っていた時に誘われて、これしか考えられませんでした。


 論告求刑 

検察官
高齢者を狙った悪質で卑劣な犯行で、被害金額も多額である。
求刑 懲役5年


 弁護人最終弁論 

弁護人
一部であるが、被害弁済も行い、被害者から減刑嘆願書もあります。
寛大な判決をお願いします。


 被告人最終陳述 

被告人
被害者には大変申し訳ないことをしました。お詫びします。


 判 決 ・・・別日

裁判長

主 文
被告人を懲役3年に処す。未決勾留日数100日をこの刑に算入する。

理 由
本件犯行はオレオレ詐欺等の特殊詐欺と同種事件で、高齢者を狙った悪質で被害金額も多額であり、重大である。

被告人は借金の返済のため、犯罪と自覚しながら犯行に加わり、75万円の報酬を得ている。

しかしながら、被告人の役割は末端の役割であり、一部であるが約30万円の被害弁済を行っており、また被告人の前刑より20年以上経過している

被告人の体調も考慮したうえ、主文のとおり判決するものである。


 裁判の向う側 

最近よくテレビ等のメディアで、オレオレ詐欺などの特殊詐欺への注意喚起を目にし、耳にしますが、あまり実感の伴わないものとしてとらえていました。
ところが、現実の事件を裁判で目の当たりにして、こんなにも簡単に高齢者の方が騙されてしまうということが良く分かりました。

この種の犯罪集団の主犯格は指令を出すだけで、借金などで金に困っている人間を言葉巧みに引き寄せて犯行に誘い、少しの報酬で「受け子」や「出し子」という末端の役割を与え犯罪を実行させるという、実に巧妙で卑劣なやり方で荒稼ぎしているというのが、良くわかりました。

一人暮らしの高齢者の方は、廻りに相談する人も少なく、ある意味社会から途絶され、判断力も弱っているだろうという、人の弱みに付け込む卑劣な犯罪で、許されないものだと思います。

特殊詐欺は、警察や行政の力だけでは防ぎきれるものではないように思いました。家族や親族、あるいは地域の見守る力も必要かと思います。

高齢者の方も、人に頼るだけでなく自覚も必要だと思いますし、高齢者自身でも、あるいは高齢者の家族は、早い内に「成年後見制度」等を活用して財産の保全をするというのも一つの方法かとも思います。

このような卑劣な犯罪の被害者とならないために、自分自身も対策を考えておく必要があるな、と考えさせられました。

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