2019年5月23日木曜日

【裁判傍聴記】病院の送迎や息子の障害のストレスから飲みました

今回の事件は、被告人が車で姉を病院に送り迎えして、実家に送り届けた後、自宅へ帰る道中に運転しながら缶酎ハイを飲んで運転していたところを、警ら中のパトカーに一時停止違反で検挙され、その後酒気帯び運転が発覚し現行犯逮捕されたものです。
逮捕時のアルコール濃度は0.48mg/ℓで基準値の3倍以上でした。

資料画像(by Wikimedia Commons)

罪 状 道路交通法違反(酒気帯び運転)
被告人 50代前半 男性
求 刑 懲役8月


 事件の概要 

平成30年9月〇日午後6時頃、被告人はその日の仕事を終えて、車で病院へ姉を送り迎えに行き、実家へ送り届けた後、自宅へ向かって車を走らせていました。
被告人は、車の中に缶酎ハイが置いてあるのに気づき、運転中にも関わらず缶酎ハイを飲みました。その後、しばらく走行して一時停止標識を無視して進んだところ、警ら中のパトカーに一時停止違反で検挙されましたが、被告人から酒の臭いがすることから呼気検査の結果、呼気中のアルコール濃度が0.48mg/ℓで基準値の3倍以上であったため、酒気帯び運転の現行犯で逮捕されました。被告人の車両からは、缶酎ハイの空き缶も発見されています。

事件の前日の夕方、被告人の会社で従業員と下請作業員も合わせてバーベキューを行いました。被告人も酒を飲みましたが、飲酒運転となるため、その夜は会社事務所で寝ました。バーべキュー終了後、従業員は残った酒類他を参加者で分配し、被告人の車にも分配分を乗せておきました。
翌日、被告人は車を運転中に、このとき車に乗せてあった缶酎ハイを飲んだものです。

被告人は平成18年にも、酒気帯び運転で逮捕され、懲役6月執行猶予3年の有罪判決を受けています。

被告人は高校を卒業後、建設業関係の会社に就職し、平成14年に独立し建設業の会社を経営しています。
会社は従業員2人で、下請け作業員は15人~20人の零細企業です。

被告人は妻と子供3人の5人暮らしで、次男は生まれつき脳性小児まひで全身を動かすことができず、寝たきりです。

父母は実家で別居していますが、父親は2年前に心臓動脈瘤と肝臓がんを発症し入院しています。

実家で父母と一緒に暮らしている姉は、2年前に悪性リンパ腫が発見され、病院に通院していましたが、その送り迎えは被告人が行っていました。


 罪状認否 

被告人 起訴状通り認めます。

弁護人 被告人と同意見です。


 冒頭陳述・検察側証拠調べ 

検察官は、事件の概要に記載した内容の公訴事実について、冒頭陳述を行い、弁護側が同意した証拠について証拠調べを行いました。


 弁護側証拠調べ 

弁護側は書証と証人訊問について申請し、検察側の同意が得られたため、証拠調べを行いました。

書 証
・被告人の長男の障害者手帳の写し
・被告人妻の嘆願書 一生被告人を監督するとの誓約書
・会社従業員の嘆願書 監督するとの誓約書
・被告人の反省文
・子供、妻、父母、姉が被告人の支援を必要としているという書面
・被告人の運転免許取り消しの行政処分の通知の写し


 弁護側情状証人訊問 

弁護側情状証人として、被告人が経営する会社の女性従業員が出廷しました。

弁護人
会社の規模は?
証 人
従業員が2人と下請け作業員が15人~20人ぐらいです。

弁護人
会社ではタクシーは誰が使える。
証 人
社長のみ使用できますが、タクシーを使う余裕はありません。

弁護人
被告人の車に乗っていたアルコールは?
証 人
前日の夕方に会社でバーベキューをしました。バーベキューが終わってお酒など余りましたので、余ったものを参加者全員で分配しました。社長の車に乗せた分配分がそれです。
社長は酒を飲んだので、その夜は事務所で寝ていました。

弁護人
通常は社長の車にアルコールは?
証 人
前回の事件以降、アルコールはありません。

弁護人
社長が接待交際でタクシーを使うのは?
証 人
数ケ月に1回ぐらいです。交際費を使えるほど大きな会社ではありません。

弁護人
今後被告人とどのように付き合っていく?
証 人
今まで以上に、社長の行動を監督・指導していきます。死ぬまで監督します。
今回の件をお詫びしますとともに、従業員にも生活があるので社長を守りたい思いです。
今まで以上に監督しますので、よろしくお願いします。社長がいなくなると会社が回りません。

検察官
事件当日、被告人が姉の送り迎えをすることは聞いていたか?
証 人
聞く機会があれば聞きますが、具体的な予定までは聞いていません。

検察官
事件当日に酒を飲むなと言わなかったのか?
証 人
言っていません。

裁判長
被告人が車を運転できなければどうする?
証 人
従業員が送迎します。

裁判長
被告人は何故罪を犯すと思う?
証 人
10年前の件がありますが、気が緩んだと思います。


 被告人質問 

弁護人
検察での供述調書では飲んだ缶酎ハイの数が、警察調書での3本から2本に変わっているが?
被告人
空き缶3本が2本になったのは、謝るしかありません。

弁護人
検察官に「3本も飲んだら、アルコールはもっと出るやろ。」と言われたからか?
被告人
そのとおりです。

弁護人
被告人の子供の状況は?
被告人
生まれつき脳性小児まひで、全身が動かせない状態で寝たきりです。

弁護人
父親の状況は?
被告人
2年前に心臓動脈瘤と肝臓がんになり、病院に入院しています。

弁護人
姉の状況は?
被告人
2年前に悪性リンパ腫が発見されて病院に通院中です。

弁護人
10年前に同種事件を起こし平成27年まで無違反か?
被告人
はい。

弁護人
今回の事件の前に飲酒運転は?
被告人
2年前の実家の在所の祭の際に、機材を車で運搬する時に酒を飲んでいました。

弁護人
タクシーを使わなかったのか?
被告人
実家のある在所は山奥でタクシーはありません。

弁護人
これまで気を付けていたことは?
被告人
酒を飲むときにはタクシーや公共交通機関を使うことです。

弁護人
今回何故車の中で酒を飲んだ?
被告人
自分に負けました。

弁護人
先ほどの社員の証言を聞いてどう思った?
被告人
家族や会社の皆に迷惑をかけて申し訳ないと思います。酒を飲まないと誓います。今後は酒を飲みに行かないことにしています。

弁護人
被告人にはいろいろな事情がある。事の重大性を分かっているのか?
被告人
分かっています。本当にえらいことをやってしまったと思っています。

検察官
缶酎ハイの数、警察では3本が検察庁では2本と陳述を変えた?
被告人
はい。

検察官
本件以外での飲酒運転は1回だけか?
被告人
そのとおりです。この件は訂正していません。

検察官
自分の車にアルコールを乗せることを何故断らなかった?
被告人
自分の意志が弱かった点があり、反省しています。

検察官
飲酒運転でも、運転しながら飲むのは珍しいが?
被告人
ストレスが溜まって、気が緩んで飲んでしまいました。

検察官
前回の件の執行猶予を反省しなさい。
被告人
反省しています。

裁判長
自分の意志が弱いとはどういうことか?
被告人
誘惑に負けやすい弱い心で、自分で自分にきびしく、周りの人に助けてもらいたいと思っているところです。

裁判長
周りの人に助けてもらわないとだめなのか?
被告人
ストレスで気が緩んで。

裁判長
ストレスとは?
被告人
病院の送り迎えや息子のこと、会社のことです。今後は酒をやめるよう努力します。近くに酒を置かないようにします。

裁判長
家族は酒を置かないようにしているのか?
被告人
長男が家で飲んでいるので、酒を置いていると思います。



 論告求刑 

論 告

動機に酌量の余地はなく、再犯の恐れがある。

求 刑

被告人に懲役8月を求刑する。


 弁護人最終弁論 

動機に酌むべき事情はありません。
被告人の飲んだストロングドライでは悪質とまではいかないと考えます。
被告人は、会社で営業と現場の両方を掛け持ち、ストレスが蓄積していきました。
しかし、こうした事情は関係なく、情状の一つにすぎません。

前回の事件では、呼気中のアルコール濃度が0.15mg/ℓでしたが、反省を長期に亘って続けてきました。従って峻烈な刑は必要ないと思料します。

被告人の妻も油断していたと反省しています。
社員もこれまで以上に監督すると約束しています。

執行猶予付きの寛大な判決を希望します。


 被告人最終陳述 

ありません。


 裁判の向う側 

被告人が家族のさまざまな事情を抱えていることは分かりましたが、かといって飲酒運転・酒気帯び運転が許されるものではありません。
弁護人も弾劾したように、このような事情は関係ありません。

被告人は、従業員や下請け作業員を抱える経営者です。従業員や下請け作業員には家族もいます。被告人の軽率な行動でこれら多くの人の生活が成り立たなくなるのです。

被告人の証言を聞いていると、飲酒の動機を「ストレスで気が緩んで」とか「周りに助けてもらいたい」などと、自覚と覚悟が希薄であるという印象を受けました。
もちろん当事者ではないので、被告人が受けていたストレス・重圧の大きさは分かりませんが、そうであれば余計に自覚と覚悟が必要です。

今後は、家族と従業員・下請け作業員とその家族のためにも、自覚と覚悟をもって、二度と同種の犯罪を犯さないように願うものです。

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