被告人には、20年近く同居している内妻がいます。金が無くても内妻に食べさせてあげたいという思いから犯行に及んだと供述しました。
罪 状 窃盗
被告人 50代後半 男性
求 刑 懲役2年
事件の概要
平成31年2月〇日夕方、被告人は近所のスーパーの食料品売り場で食料品9132円分をレジを通さずに店を出て、駐車場の人気のないところで持っていたエコバックに移し替え持ち帰りました。犯行を防犯カメラで確認した保安員は、前日にも同様の手口で万引きした人物と同一人物であることを確認して警察に110番通報しました。直後に駆け付けた警察官が路上で被告人に職務質問したところ犯行を自供したためその場で逮捕されました。逮捕されたとき被告人の所持金は2円でした。
被告人は、平成31年1月の中頃から派遣の仕事が減って金がなくなり、同居している内妻に食べさせることができないで困っていたところ、たまたまスーパーで万引きしているところを目撃して、自分もやってやろうと思い立ちました。
逮捕された前日、同じスーパーの食品売り場で万引きし成功したため、翌日もやってやろうと思い、犯行に及んだところ結果して警察に逮捕されたというものです。
被告人は四国の中学校を卒業後、勾引パチンコ店の店員など職を転々としながら犯行当時は派遣社員として働いていました。
被告人には窃盗での罰金の前科が1件と、累犯での懲役刑を含む有罪前科が5件あります。平成30年5月には前刑で服役していた刑務所から仮釈放され、平成30年12月から日当7千円で派遣社員として働いていました。平成31年1月当時は派遣社員として3万5千円を得ていましたが内1万5千円をパチンコで使っていました。
被告人には、20年近く同居している70代の内妻がいます。
弁護側証拠書証
1.スーパーへの被害金額弁済領収書
2.スーパーへの謝罪文とこれに対するスーパーの受け取り証
3.同居する内妻の思いを綴った書面
被告人質問
弁護人
何故やったのか?
被告人
仕事もなくなり、金もなくなったのでやりました。
弁護人
事件当時の仕事はどうしていた? そして収入と生活費は?
被告人
週3日の派遣社員の仕事で働いて、収入は月7万円程度の給料と内妻の年金が月4万円でした。月の生活費は家賃が4万5千円とテレビが1万円、パチンコに1万円程度でした。
弁護人
金が無い時は生活はどうしていた?
被告人
タマゴと漬物など家にあるものを食べていました。
弁護人
平成28年に懲役1年10月の実刑判決を受けて刑務所に入り、平成30年5月に仮出所しているが、仮出所から1年も経っていないのに何故万引きをした?
被告人
自分の意志が弱いのと、仕事がなかったからです。
弁護人
パチンコなどで金を使いすぎないようにする対策はどうする?
被告人
金は内妻に預けて管理してもらいます。
弁護人
被害弁済の金はどうした?
被告人
内妻が立て替えてくれました。
弁護人
内妻に迷惑をかけた。
被告人
精神面で支えてもらっていた。出所したら仕事で得た金で食べてもらって喜んでもらいたいと思います。
検察官
派遣社員の日当7000円は?
被告人
仕事の翌日に4000円貰えます。残りは月払いになって月末に支給されます。
検察官
給料がはいったらどうしていた?
被告人
いくらか内妻に預けて残りでパチンコをして、少しでも儲かったらと思っていました。
検察官
ギャンブルは必ず金が減っていくが?
被告人
今後はパチンコや万引きはやめます。本当にやめます。
検察官
前回の裁判でもそのように言っていたのでは?
被告人
パチンコと万引きはやめますと言っていましたが、今回こそ今後はどんな仕事でもやっていこうと思っています。今回の万引きの直前に仕事の面接を受けていました。受かれば仕事にいこうと思っていました。
裁判長
犯罪を犯した原因は?
被告人
意志が弱いことと、仕事がなかったからです。
裁判長
意志が弱いとは? さっきから同じことを言っているが?
被告人
次こういうことをしたら誰も助けてくれないとわかっています。
裁判長
リスクを背負っているのに悪いことをやったらばれるということは分かっているはず。
被告人
二度と犯罪をしないことを約束します。
論告求刑
論 告
累犯窃盗であり、大胆な犯行で被害金額も低いとは言えない。
同種前科もあり再犯の可能性も高い。
求 刑
懲役2年
弁護人最終弁論
公訴事実は争わない。
情状として、被告人が20年連れ添っている内妻の収入は年金のみで家賃4万5千円を払うと生活できない。被告人の犯行はこの内妻への思いやりの結果である。
確かに規範意識の低下は否めないが、犯行はお金がないことへの単純な犯行であり、今回は以前よりも反省している。
寛大な判決をお願いしたい。
被告人最終陳述
今後は万引きをしないことを約束します。

裁判の向う側
今回の公判の傍聴席には被告人と同居する内妻と思しき方がが公判の行方を見守っておられました。恐らく70代だと思いますが動揺することなく静かに見守っておられましてた。審理が終わり被告人が再度手錠と腰縄で退廷するときには、被告人の小さな会釈に対し小さな会釈で返しておられました。
被告人と内妻は20歳ほど年齢が離れていますが、被告人も内妻も男女の愛情を超えて、
お互いにいたわりあって生活しているのでしょう。そのことがかえって今回の被告人の万引きという犯行に結び付いたということであれば、悲しいものです。
恐らく被告人は懲役刑の実刑となるでしょうから、しばらくは内妻は一人で生活することになるでしょう。今よりも経済的にも精神的にも厳しくなるでしょうから、被告人の今回の犯行は内妻を苦しめる結果となるのでしょう。
浅はかな考えで犯罪を犯すと被害者だけでなく、身内をも傷付けることを被告人は理解して今後は生活してほしいものです。
0 件のコメント:
コメントを投稿